「観ている人は観てるぞ!」
シーズン終了後の昨年10月、コメディのツアーでレッズの本拠地、オハイオ州シンシナティを訪れる機会があった。それも、シンシナティでは初となる「ヘッドライナー」としての公演。「ヘッドライナー」とはまさに公演の「顔」であり、そのアーティストを観るために観客はチケットを買い、劇場に足を運ぶ。普段とは異なるアウェーの地での「試合」に期待と不安を抱えながら、飛行機に乗り込んだ。しかし、蓋を開ければ、チケットの売れ行きが芳しくなく、コメディアンとしての力不足を感じさせられた。公演が当日キャンセルになるかギリギリの人数だと劇場から告げられた。折れかけた心で、秋山選手にLINEを送った。
「今日のシンシナティ公演、チケット全然売れてません……」
すると、すかさず返信があった。
「サク、観ている人は観てるぞ! お互い頑張ろう、俺もその気持ちで来年やるよ」
ベンチを温める日が多くても、毎日球場に一番乗りして入念なアップを欠かさず、試合中も常に最善の準備をし続ける秋山選手の姿がすぐに思い出された。と同時に、これからのせっかくの「打席」に懸けようとしない自分の愚かさにハッと気づかされた。
結局、その日350席中、75人だった会場を笑わせ、なんとか「ヒット」を打つことができた。あのとき、秋山選手のあのことばがなければ、バットを振ることもなく見逃し三振で終えていたかもしれない。
そしてあのとき、僕は今年の秋山選手の活躍を確信した。必ず秋山選手はやってくれる! そう信じている。そしてそれは地元のコメディアンだって同じだ。
「SHOGOがこんなもんじゃないってみんな知ってるんだ!」
ショーの前座を務めてくれたシンシナティのコメディアンはこの日、レッズのユニフォームで舞台に立った。背番号は「4」、背中にはAKIYAMAの文字。
終演後、彼が目を細めながら僕に言ったセリフが忘れられない。
「俺たちは、そしてシンシナティは、SHOGOがこんなもんじゃないってみんな知ってるんだ! 彼は必ず、この街を元気にする! 町の“顔”になる男だ!」
アメリカで戦う「同志」として、秋山選手を心の底から尊敬している。そして彼の活躍は、僕だけじゃない、アメリカで戦う多くの日本人の勇気になるはずだ。
秋山選手がシカゴで魅せてくれたように、いつか今度は僕がシンシナティで秋山選手の前で、大爆笑の公演をして「ホームラン」を打つと決めている。そして今年もリグレーフィールドで満員のカブスファンには気づかれないように、秋山選手の打席だけ、心の中で、おなじみのブルーハーツの登場曲『人にやさしく』を口ずさみながら応援すると決めている。
「マイクロフォンの中から ガンバレって言っている
聞こえてほしい あなたにも ガンバレ!」
<Saku Yanagawa>
シカゴを拠点に活動するスタンダップコメディアン。大阪大学在学中に単身渡米しコメディアンの道へ。これまで世界12カ国で公演。アメリカ現地紙で「アメリカコメディ界の新星」と称される。2021年、コメディアンとして、フォーブスの選ぶ「世界を変える30歳以下の30人」に選出。日本国内ではフジロックなどに出演。著書に『Get Up Stand Up! たたかうために立ち上がれ!』(産業編集センター)
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