「Hey what’s up! It’s nice to see you!(よぉ! 元気? 会えて嬉しいよ)」
アメリカ・シカゴにて、秋山翔吾選手は完璧な英語で茶目っ気たっぷりに、僕にそう挨拶してくれた。
長きにわたり続いたMLB労使協定もようやく選手会側、オーナー側双方が合意に達し、開幕に向けいよいよ各チームの春季キャンプが行われている。多少の遅れこそあるものの、162試合「全試合開催」というマンフレッド・コミッショナーの発表に胸をなでおろしたMLBファンも多いことだろう。筆者もそのひとりだ。
筆者はアメリカ・シカゴを拠点にする日本人スタンダップコメディアンであり、マイク1本で舞台に立つことを生業にしている。そして、メジャーリーガーを夢見て野球に打ち込んだ元球児でもあり、現在もシカゴ・カブスの本拠地リグレーフィールドのすぐ近くに住み、年間40試合は球場に足を運ぶ大のカブスファンだ。
それでも今季、カブスと同地区、ナ・リーグ中地区のライバル球団、シンシナティ・レッズ所属の秋山翔吾選手に熱い視線を送らずにはいられない。
「このままでは終わらせない」という目に圧倒された日
実は秋山選手とは、昨年春にシカゴで知り合って以来、お互いの遠征やツアーの際には食事を共にするなど親交がある。カブス戦を終えた直後に初めてお会いしたが、握手した際のマメだらけの右手が強く印象に残っている。そして何より、その謙虚な人柄と、他者への気遣い、リスペクトに大きな感動を覚えた。
「野球だって日本とアメリカでこれだけ違うのに、“笑い”はことばを使って勝負して、文化も異なる人を笑わさなきゃいけないから大変だろうけど、やりがいがあるな」
昨年のレッズは、ホームラン34本を放ったカステヤノス、規定打席不足ながらOPS.949のウィンカー、そして年間通して打撃好調だったネイキンが外野でレギュラー起用され、秋山選手の出場機会は限られた。
シカゴでの食事の際も、すでに翌日のベンチスタートが濃厚だったが、球場に観戦に伺うことを告げると、こちらに気を遣わせないようにか、はにかみながら、「明日は、ひとまず試合前の俺の最高のバッティング練習を見せられるな」と半ば自虐的な「ジョーク」にして笑わせてくれた。しかし、その内に秘めた悔しさと闘志は痛いほどによくわかった。僕自身、自身の内面にある強いエネルギーをときに自虐的に「ジョーク」にして届けるのが仕事であるコメディアンだからこそ、余計に伝わりくるものがあった。
地元にも大いに期待され契約を交わしただけに、本来の実力を発揮しているとは言い難いこの2シーズンの成績に辛辣なメディアも少なくない。そして何よりそうした記事は本人の目にも届いていることだろう。しかし、あの日の「このままでは終わらせない」という気概に満ちた目に圧倒されたことを、昨日のことのように覚えている。