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「イヤです、答えません」発言に見えた生き様…巨人の大エース・菅野智之を応援したくなる理由

文春野球コラム ペナントレース2022

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 開幕から1カ月あまりが過ぎた頃、巨人の歴史的快挙がニュースになりました。

――4月までにプロ初勝利を記録した投手が6人も誕生。

 史上初の出来事だそうです。堀田賢慎選手、戸田懐生選手、赤星優志選手、大勢選手、平内龍太選手、山﨑伊織選手の6人が早々にプロ初勝利を記録。「新時代の幕開けだ」と心をときめかせた人も多かったはずです。

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 しかし、僕は素直にそうとらえられませんでした。「あれ? これヤバくない??」と思ってしまったんです。開幕直後からプロ初勝利の投手が続出するということは、計算が立つ投手がいない裏返しでもあります。もちろん、フレッシュな投手の躍進はうれしいものの、長いペナントレースで優勝を勝ち取るには不安を覚えてしまったのです。

 4月29日からの10試合は1勝9敗と大苦戦。その後は持ち直したとはいえ、経験の浅い投手陣はほころびを見せ始めました。

 そんな今、予告先発に「菅野智之」の名前を見つけると、ホッと胸をなでおろしている自分がいます。巨人にはこの大エースがいる。その存在感と安心感は数字だけでは測れません。

菅野智之

「誠司、この『負け運』って何?」

 菅野選手について、忘れられないシーンがあります。

 コナミの大人気野球ゲーム『パワプロ(実況パワフルプロ野球2018)』の発売前プロモーションで、巨人の菅野選手と小林誠司選手の同級生コンビがゲームで対戦する動画企画がありました。

 対戦中、菅野選手はあることに気づき、小林選手に尋ねます。

「誠司、この『負け運』って何?」

 小林選手は黙って下を向いてしまいました。

 パワプロには選手の特徴に応じた特殊能力がついています。「逆境○」「重い球」といったポジティブな能力もあれば、勝ち星に恵まれにくい「負け運」というネガティブな能力も存在します。菅野選手は2015年に防御率1.91という素晴らしい成績を残しながら、10勝11敗と負け越したシーズンもありました。そんな不憫な背景もあって、菅野選手に「負け運」の特殊能力がついてしまったのでしょう。

 でも、5月22日時点の菅野選手の通算成績は112勝59敗。たしかに勝ち運に見放された時期があったとはいえ、勝率6割をはるかに超えているのです。平成後期から令和にかけ、巨人を支えてきた大エースなのは間違いありません。

 ここまできたら、菅野選手にはなんとか通算200勝を達成してもらいたい……。そう思わずにはいられません。

 通算200勝を達成した投手は、日米通算なら2016年の黒田博樹さん(元広島ほか)、日本だけの数字なら2008年の山本昌さんを最後に現れていません。

 現役投手でもっとも近づいているのは、石川雅規選手(ヤクルト)で通算179勝。その石川選手は42歳でここまでたどり着いており、いかに200勝という数字が果てしないかが伝わるはずです。なお、日米通算なら田中将大選手(楽天)が185勝、ダルビッシュ有選手(パドレス)が176勝と射程圏内に入っています。

 菅野選手は今年10月の誕生日で33歳になります。選手としてのピークは越え、これから徐々に絶対的エースの立場ではなくなっていくのでしょう。それでも、これまでの菅野選手の歩みを見ていると、スパッと気持ちを切り替えてモデルチェンジに成功するイメージが湧いてきます。

 2018年には新球・シンカーに挑戦し、2020年には上半身を先にねじって始動する不思議な投球フォームへと変更。でも、いずれもフィットしないと見るや、固執することなくバサッと捨てて新しい道を選んだのです。変化を恐れなかったからこそ、今の菅野選手があるのではないでしょうか。

 たとえ球速が衰えて140キロ台しか出なくても、正確なコントロールと投球術であと10年は僕たちファンを楽しませてもらいたい。そうすれば、自然と200勝という数字に近づいていけるはずです。近い将来、「クオリティスタート(6回3自責点以内)の鬼」と呼ばれ、着実に勝ち星を重ねる菅野選手の姿も見てみたいです。

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