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陽岱鋼を思い出す…“野球のうますぎるファイターズファン”今川優馬が継承した伝統芸

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/05/25
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先駆者の陽岱鋼は今季から米国独立リーグへ…今も続ける挑戦

 陽岱鋼は巨人での5年間を経て、今季からは意外なことに、米国の独立リーグ「レイクカウンティ・ドックハウンズ」に加入した。台湾に戻れば大スターだ。昨オフは母国のプロ野球入りも含めて、進路が注目された。オフの間に応じた数少ないインタビューでは、こんなことを言っていたようだ。

「今こそ新しい刺激が必要なのです。野球という道で挑戦を続けます」

 らしい言葉だと思った。お立ち台での決めセリフ「サンキューで~す」に象徴されるような派手で、キラキラした一面が目立つ陽岱鋼にも、鎌ケ谷の泥にまみれた時代がある。エラーばかりだったデビュー当初、強打には見るものがあったが、一軍への道は遠かった。遊撃のレギュラーには金子誠がおり、外野に転向してからも森本、糸井、稲葉の鉄壁外野陣が壁となった。1軍に昇格したと思えば、外野守備で自ら打球を蹴り飛ばしてしまう珍プレーをやらかしたこともあった。

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 2015年は、故障を繰り返してシーズンの半分ほどしか出場できなかった。この頃は右肩にも痛みがあり、送球からもかつてのようなキレは失われていた。鎌ケ谷でのリハビリ中に、口にしていた言葉が重かった。

「僕はレギュラーを取るまで、壁ばっかりでしたからね。だから思うようにいかないような今の状況も、神様の試練だと思って我慢できます。最初からポジションを取れていたら、無理だったでしょうね」

 日本ハムを去ってからの陽岱鋼は、正直我慢ばかりだったと思う。涙のFA会見を経て移った巨人では、自らのコンディションも整わず満足のいく出番は得られなかった。そして今はまた、新たな環境に飛び込んでいる。新天地のドックハウンズでつける背番号は、日本ハムで背負っていた「1」だ。14日に開幕したリーグでは早くも本塁打やサヨナラ打を記録。自身のインスタグラムにはバス移動の模様を投稿したりしている。我慢している部分もあるだろうが、何より楽しそうだ。新しいチャレンジを糧に、まだ続くはずの野球生活に生かしてくれるだろう。

 話は戻る。今川のフェイクは、陽岱鋼が見せてくれたものほどスマートではなかった。必死で打球を追う中、なんとか一瞬向き直ったという格好だった。ただスタンドやテレビでこのプレーを見たファイターズファンの中には、かつての今川のような野球少年がいるはずだ。泥臭いプレーの意味を知り、野球の奥深さを感じたはずだ。いつか自分もやってみようと思ってくれれば、チームの“伝統芸”はまた先に継承される可能性が生まれる。

 北海道への移転から19年目。ファイターズに憧れて育った選手が、歴史を継承するかのようなプレーを見せてくれたことを喜びたい。チームの流れの中で選手はどんどん入れ替わるものだが、ファンははるかに長い時間を共にする。ファンとして記憶したプレーを、ファイターズの一員としてグラウンドで再現してみせるなんて、それこそ「野球のうますぎるファン」今川優馬にしかできないのだから。

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