二塁送球に難があった大城卓三
なぜ岸田と大城を立て続けに指名したか。それは、単純に捕手の数が足りなかったからです。
当時は長らく正捕手を務めた阿部慎之助が首の故障もあって、一塁手にコンバートされていました。小林誠司が正捕手に定着したとはいえ、存在感のあったベテランの相川亮二が引退。その他にも戦力外になる捕手もいて、「どうしても支配下で2人は欲しい」と考えていました。結果的に2018年は岸田と大城を入れても、支配下の捕手が6人しかいなかったのです。
村上を獲得しようとしたのも、捕手補強の一環でもありました。村上が獲れなかったこともあり、捕手としてもっとも高く評価していた岸田を2位で指名したのです。
当時の岸田は高卒3年目と若く、他球団からの評価も高い存在でした。若くして強豪社会人で揉まれ、素晴らしいスローイング能力がありました。キャッチングもよく、打撃力も悪くない。非常にバランスのとれた好素材でした。
一方、3位で指名した大城は、捕手としての守備力は岸田に劣るという評価をしていました。二塁送球が乱れることが多かったからです。
その代わり、左打者としての打撃は素晴らしいものがありました。強豪社会人でクリーンアップを任され、プロでも通用する能力でした。その時点で大卒3年が経過した年齢でしたが、高く評価していました。
スローイングに課題はあったものの、大城には「後ろに逸らさない」という長所もありました。ワンバウンド投球をことごとく止め、投手が安心して投げられるブロッキングができたのです。
プロ入り後、チャンスをものにしたのは大城でした。課題のスローイングも、試合に出続けることでどんどん洗練されていきました。プロ入り3年目の2020年には、小林が故障した窮地を救い正捕手に。昨季はリーグ1位の盗塁阻止率.447を記録して、驚かされました。
現時点では大城がリードしていますが、岸田も年齢的にまだこれからの選手です。プロ入り後はムードメーカーとしてクローズアップされていますが、社会人時代はあれほど明るい選手とは知りませんでした。寡黙な選手が多い捕手というポジションで、貴重なキャラクターだと感じます。
ただし、原辰徳監督に聞くと「試合になるとおとなしい」ということだったので、ぜひ試合でも明るく元気なプレーでチームを引っ張ってもらいたいですね。
プロ野球は称賛も罵声も浴びる世界
当時は世間から批判を浴びましたが、大城と岸田の2人をドラフト指名したことに何の後悔もありませんでした。ドラフトの目的は、チーム編成のバランスをよくするため。その原則にのっとって、あの年は2人が必要だったのです。
4位以下も北村拓己(亜細亜大)、田中俊太(日立製作所/DeNAへ移籍)、若林晃弘(JX-ENEOS)、湯浅大(健大高崎)と、脇を固める貴重な人材として選手層の底上げに貢献してくれています。7位の村上海斗(奈良学園大/現堺シュライクス)が2020年限りで戦力外通告を受けたのは残念でした。
僕は現役時代から巨人という特殊なチームにいたこともあって、バッシングを受けることに慣れていました。「みんなから称賛されることもないけど、全員から嫌われることもないだろう」と楽観的に考えていました。
プロ野球はファンからお金をもらう職業です。お客さんは自分の思いを込めて、身銭を切ってくれる。活躍した時だけ称賛してもらって、ダメだった時は黙ってくれ……なんて道理は通じません。それがプロ野球という世界だと思うのです。
厳しい世界で戦う選手たちが、1年でも長く輝けることを――。一人の野球人として祈っています。
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