サンディエゴ・パドレス傘下のエルパソ・チワワズでメジャー昇格を目指す秋山翔吾について黒川麻希さんや米野智人さんが書いたコラムを読み、ふと思い出したのがもう一人の“西武出身の海外組”である小川龍也のことだった。

「龍から獅子に来たので小川龍也は“獅子也”に変わります」

 2018年7月、中日から金銭トレードでやって来た小川は入団会見でそう言ってライオンズファンの心をつかんだ。

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 当時の西武は中継ぎ左腕の駒不足だったなか、変則サウスポーの小川は水を得た魚のように活躍した。2018年には15試合に投げて防御率1.59で10年ぶりの優勝に貢献すると、翌年は自身最多の55試合に登板してリーグ連覇を支えた。

 だが2020年オフに左肘の手術を受けると、翌年は5試合の登板に終わって契約満了に。合同トライアウトを受けたがNPB球団から声はかからず、今年1月、メキシコのモンテレイ・スルタネスと契約したことを発表した。

 ここまでの動向なら知っている人も多くいるだろう。だが、その後は日本メディアでおそらく報じられていない。

 インスタグラムを検索すると「ogawaryuya93」という本人のアカウントがあり、5月9日、「この度モンテレイスルタネスとの契約が終わりました」と投稿があった。グーグルで「Ryuya Ogawa」と打って検索すると、「MiLB」という米国マイナーリーグの公式ホームページに4月26日限りでリリースされたと書かれている。

 前日の4月25日、小川はメキシコで初先発のマウンドに立つと、3回3失点で降板。翌日、契約解除に至った。アメリカやメキシコでは決して珍しくない出来事とはいえ、一体何があったのだろうか。

「いきなり言われました。GMも代わったり、いろいろあって……」

 小川に連絡をとると、外国人選手枠の関係で登板前からロースターを一度外れることが決まっていたという。そこに試合で結果を出せなかったことも重なり、契約打ち切りとなった。

メキシコで地元ファンに囲まれて ©小川龍也

日本を出たから気づいたこと

 スマホ越しの小川に聞きたいことはたくさんあった。そもそもなぜ、メキシコに行くことにしたのだろうか。

「もともと去年の11月の終わりか12月の頭に、今はDeNAにいる住田ワタリさんという方が『メキシコに興味あるか』と聞いてくれたんです。住田さんとは中日のときに一緒で。『興味あります。でも、返事は合同トライアウトの結果次第で』という感じで言っていました」

 前述したように、昨年12月8日の合同トライアウトでは声がかからなかった。

「でも、メキシコでやるかどうかずっと悩んでいました。もう引退しようかなとか……。ただ、自分に何ができるかって言われたら、何もないので。だからずっと、迷っていましたね」

 自分から野球をとったら何も残らない――。

 多くのプロ野球選手がそう話すのを耳にしてきた。小川も同様に感じ、「何事も経験してみよう」とメキシコの球団を紹介してもらって現役を続けることにした。

©中島大輔

 投手人生が消化不良だったのも事実だ。2020年オフに左肘の手術を受け、その影響は翌年表れた。

「最初はやっぱり痛かったですね。久々に投げるから痛いのもあるけど、それまでと同じ感覚では投げられませんでした。でも後半にはだいぶ感覚もつかんできて、二軍の成績もそこまで悪くなかったので、まだできるんじゃないかっていうのはありましたね」

 そうしてメキシコへ行くことにしたが、新型コロナウイルスのワクチン接種証明書の関係などで飛行機に2度乗れなかった。3月24日、三度目の正直で現地へ渡るとオープン戦の最中で、1カ月後には公式戦の初登板に臨んだ。そこで結果を残せず、メキシコでのプロ生活はたった1試合で途切れた。

 第三者が冷静に見ても、あまりにも厳しい現実だ。率直に小川はどう感じたのだろうか。

「でも、面白かったですね。海外は日本みたいに安定しているわけではないじゃないですか。契約がいつ終わるかとか、いつ移籍するかもわからない。もっと若いうちに来ていたら、いろんなチームに挑戦できたのかなって思いました」

 どこか達観したような口ぶりだった。傍目には、“野球の神様”はあまりに残酷な仕打ちをしたように感じるが、小川にはたった1カ月半のメキシコ滞在で得たものがあった。

「メキシコにいる期間の最後、ホームステイみたいな感じで知り合いのところにいたんですよ。その方のお父さんは日本人で、その家に一度食事に行ってから仲良くしてもらって。いろんな人を紹介してもらったり、いろんな場所に連れていってもらったりして、向こうの人の温かさに触れました。そのお父さんは飲食店の仕事で基本的に家にいなくて、お母さんとスペイン語でやり取りしました。わからないことは携帯で翻訳しながら。便利ですね、携帯って(笑)」