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「あきらめないで頑張った剛を見てきたから…」日本ハム・松本剛の母、2022年の一喜一憂

文春野球コラム 日本シリーズ2022

2022/10/27
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 パ・リーグ首位打者を獲得したマツゴーこと松本剛のお母さんからメールをもらった。

「この長い年月、あきらめないで頑張った剛を見てきたから報われて本当に嬉しいです。すごいことなんですね、首位打者って! 近藤君も西川君もとってなかったと知りビックリ‼ あちこちからお祝いの言葉や花やら送られてきて戸惑っています」

 11年間、プロ野球選手のお母さんだったのに「首位打者」が凄いことだと初めて知ったという。「近藤健介や西川遥輝が取ったことのあるタイトル」と思っていたのだ。それは、個人成績やチーム成績よりも、関心事は「松本剛」。自分の息子が一軍なのか二軍なのか、一軍にいれば試合に出るのか出ないのか、そのことに一喜一憂してきたからだ。

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松本剛 ©時事通信社

「今年は剛くんがいきなり首位打者獲ってもおかしくないですよ」

 松本さんと共通の友人を介して初めて会ったのは4年前だが、今年改めてFacebookでつながってメッセージのやりとりをさせてもらった。4月中旬のことだ。

「私は昨日マリンスタジアムへ行ってきました。剛の姿を見て楽しく応援してきました。今はこの成績ですが、たまたまですね。でも、たとえ一瞬でも私と家族はとても喜んでいます。これまでのシーズン、良ければ使ってもらい、調子を崩すとすぐ交代というところにいた息子、本当に心が苦しい時が何度となくありました。今絶好調でもその日はまた突然来るかもしれないと、ついついどこかで思ってしまいます」

 その時点で打率4割、パ・リーグ打撃ベスト10のトップ。盗塁7でもトップに立っていた。それでも浮かれることができない気持ちはわかる。

 2017年に初めて外野のレギュラーをつかんだマツゴーだが、翌年はベンチに置かれた。近藤・西川と大田泰示が外野のレギュラー。ルーキーの清宮幸太郎が外野に入ることもあった。やがてマツゴーは鎌ヶ谷の二軍へ。以来、シーズン毎の一軍出場は54試合、4試合、84試合、47試合。ケガで出られない日々もつらいし、元気なのに二軍で過ごす日々もつらかっただろう。

「去年は初めてレギュラー獲ったオリックスの杉本裕太郎がホームラン王ですからね~今年は剛くんがいきなり首位打者獲ってもおかしくないですよ」なんて浮かれていた僕も気持ちを抑えてメールした。

「まずは試合に出続けてくれることを願っています」
「本当にそうなんですよ。長ーいトンネルの出口です。私の不安はまだまだ続いています」

あの頃はまだBIGBOSSの選手起用に脅えていた

 4月下旬の東京ドーム、対オリックス3連戦。ファイターズの東京ドーム開催は今シーズンこれだけだ。僕はファイターズファンの仲間と、松本さんは家族や友人と、3日連続で観戦した。

 初戦、マツゴーは山本由伸から第1打席でセンター前ヒットを放つと、2打席目はレフトへ二塁打。石井のヒットで三塁に進むと、石井とのダブルスチールでホームスチールも決めた。沢村賞投手から2点を奪取、しかもマツゴーの大活躍。二階席の僕らは盛り上がる。一階席では松本さん家族が見ている。帝京高校出身だから恩師や友達も見に来ているだろう。みんなの前でヒットが打ててよかったね、剛……と、すっかり親の視点になっている自分に気付いた。

 しかし、2戦目と3戦目はスタメンを外れてベンチ。どちらもマツゴー応援団がたくさん来ているだろうに。監督采配かケガなのかと少し不安になったが、ヒザにたまった水を抜いたとの報道。大事に至らずホッとする。

 あの頃はまだBIGBOSSの選手起用に脅えていた。今日四番でも明日はベンチかもしれない。BIGBOSSの好物、一発のある今川優馬・万波中正の活躍はファイターズファンにとっては喜びであり、マツゴー・ファンにとっては脅威でもあった。

 4月終了時点で4割越えのダントツ首位打者だったが月間MVPは楽天・西川。「剛くん残念でした。チーム成績の差ですかね~」とメールを送ると、松本さん「それは高望みですよ」と欲がない。そうだ、月間MVPよりもシーズンを全うすることが第一だ。

 5月も好調のマツゴー、交流戦の神宮では2戦目に初回先頭打者ホームラン! テレビ観戦だった僕は神宮で観戦する松本さんにメールを送る。

「見ましたか~?」
「間に合いませんでした~」

 僕はすっかり、「松本さんの友人の野球バカ」みたいなポジションにいた。

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