石田にどうか今年こそハピネスをください
ファンはそもそも罪深い。チームが勝つことを求め、選手が活躍することを求め、末長くいてくれることを求め、いい人であることを求め、諦めないことを求め、献身的であることを求め、そして選手が幸せであることを求める。そんないくつもの矛盾を応援という名のもとにぶつけてしまう。自分以外の誰かの一投一打に心ごと持っていかれて、うまくいけば喜び、うまくいかなければ勝手に悩み苦しんで。そうやって誰かの夢が自分の夢になる、稀有な経験をさせてもらう。
先発を外れて、中継ぎに回った石田。思うようにならない成績と、それでもやっぱり美しい所作のコントラストが、より一層自分の罪深さを思わせた。勝つために、飲み込むのが難しかったであろう配置換えも受け入れ、時には選手会長として仲間を引っ張り、単純な数字だけでは表しきれないインパクトをチームとファンに与えてきた石田健大。石田にどうか今年こそハピネスをください。
2023年、その時はくる。自身3度目の開幕投手に選ばれた石田健大。1回目は2017年、6回3失点だった。2回目は2018年、5回5失点だった。WBCがなかったら、大貫の肉離れがなかったら、もしかしたら舞い込んではこなかったかもしれない開幕投手の座。でもなんだろうな、この安心感。三浦監督が石田で行くと決めたニュースを見た時の、今でしょ感。頭にジョウロ乗っけて踊るイケイケさだけでは、乗り越えられない壁があることを知った、熱く短い去年の夏。桜の花びらが風に舞うようなたおやかさは、今だから。かつての苦手阪神戦、現在進行形苦手京セラドーム、ここを国立劇場の空気に変えられるのは石田しかいないから。地獄を知り、限界を知り、それを自分の手で乗り越えて三度の開幕投手を掴んだ、石田なのだから。
夢に近づけば、夢は遠のく。ベイスターズは永遠のパズルなのかもしれない。そして今年もまた私は罪深く、誰かの一投一打に一喜一憂しては家族に八つ当たりしたり原稿を遅らせたりamazonでストレス買いしたりしながら、この解けないパズルにもがき苦しむのだろう。やだな。でもやっぱり、永遠のパズルなんてないとも思う。いつか誰かがするりと真実に辿り着くはず。ベイスターズの絡まった糸を最初に解くのは、石田健大のたおやかな指先であってほしい。
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