ローテを回りながら進化する「レベルアップの中6日」
2月10日に210球を投げ込んでも、オープン戦を中6日で回っても、常に体はリセットされている。もう万全、と思いきや、技術面でまだ課題があるという。
「もう少し右足の着地を遅らせたいのと、左足の内転筋を使いたいんですよね。それができれば、もっと上半身が走るんですけど」
ここに来て大丈夫か。
「いや、今年はローテーションで回るのではなく、回りながら、進化するのが目標です。現状維持ではなく、レベルアップの中6日。おそらくシーズン終了までこの感じですよ。でも、その方が絶対に面白い」
課題を潰す。すると、また別の課題が出て、潰す。まさに一歩ずつ階段を上るような毎日がアスリートの生活であり、醍醐味だ。
「一流はみんなそうでした。福留(孝介)さん、荒木(雅博)さん、松坂(大輔)さん、誰も現状に満足していませんでした。岩瀬(仁紀)さんなんて引退直前まで『どうしてもチェンジアップが投げたい』と言って、僕に握りやリリースの感覚を聞いてきましたもん」
ところで、今年の開幕投手を最初に意識したのはいつなのか。
「去年の9月30日の夜です。その日に二桁勝って、チームの勝ち頭になりました。だったら、次の年は開幕から投げてエースと呼ばれる年にしようと思ったんです」
野球人生の目標設定は1年単位だ。一昨年は規定投球回クリア、去年は二桁勝利、今年はエース。そして、小笠原は次の言葉に力を込めた。
「いつまでも大野(雄大)さん、柳(裕也)さんに引っ張ってもらっていてはダメなんです。そんなんじゃ、優勝なんて無理。僕と(高橋)宏斗が引っ張らないと。下からもっと突き上げないといけません」
20歳の侍はどんな存在なのか。
「あいつはマジで凄いです。あんな細い体で158キロでしょ。一生懸命ウエイトしているのがアホらしいですよ」と笑う。「でも、宏斗はまだ1年間、中6日で回ったことはありません。今年は『慎之介さんはこんな毎日を過ごしているんだ』と背中で見せるつもりです」
エースを目指す男の言葉だ。そして、ポロッと「優勝」の二文字が出た。
「すみません。優勝については8月の終わりにもう一回聞いてもらえませんか? やはりシーズンは一試合一試合の積み重ね。終盤に優勝を狙える位置にいることが大切です。もし、そこにいたら、その時、ちゃんと答えます」
戦力外通告がよぎった2年前から飛躍を遂げた背番号11。その根底にあるのは毎日毎年の積み重ねという心だ。疲れを溜めない体を手に入れ、技の向上にも励む。やりたい一心だった5年前、やらねばと自覚した今年、全く異なる開幕マウンドに今宵、立つ。さぁ、はじめの一歩を見届けよう。そして、優勝への質問は夏まで飲み込むことにしよう。
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