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「本格的にプロを目指し始めたのは大学に入ってからというのを、どう評価するか」

 プロに入って最近では力感のないフォームから切れのある球をビュッと投げ込むスタイルにモデルチェンジしたようですが、球持ちの良さ、ここ一番での切れのあるボールは、大学時代から変わらないと感じます。当時の活躍ぶりは私がわざわざここで説明するまでもありませんので、当時のあるプロ球団のスカウトとの印象深いやり取りをご紹介しておきましょう。

 多くの球団が高い評価をするなかで、複数人で視察する、いわゆるクロスチェックを行うなかで、あるスカウトが次のようなことを言っていました。

「確かにいい選手なのは間違いない。でも、本格的にプロを目指し始めたのは大学に入ってからというのを、どう評価するかだね。ずっと高校から甲子園に出る強豪校で経験を積んできて、全てを野球に打ち込んできた選手と比べると、今の時点では経験や考え方の差はあるように思う」

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 確かに都立の日野高から桜美林大に進んだ佐々木千隼投手は、いわゆる“野球エリート”ではなかったと思います。厳しい環境でこそ培えるメンタルや壁の乗り越え方など、そういう経験が不足しているぶん、非常に伸びしろはあるが、プロに入ってから果たして一歩ずつステップアップしていけるか――。高校から大学、プロと活躍したそのスカウトの言わんとすることは説得力があり、今でもよく覚えています。

 だからこそプロ入りして7年目、山も谷もあったと思いますが、そろそろ咲いてほしいと心から思わずにはいられません。9月22日にはファームの巨人戦でリリーフ登板による白星を挙げていましたが、自分の置かれている立場について、きっと本人の心中には思うところがあるはずです。

やっぱりこのドラフト世代は咲き時がやって来ているのかもしれません

 最後にちょっと話は横道にそれますが、中央競馬の担当記者は夏場に北海道への出張があります。函館や札幌でレースが開催されるためですが、その合間にタイミングよく日本ハムの池田隆英投手と久々に会う機会がありました。2016年ドラフト2位で楽天に入団して、今では日本ハムで大学同期の田中正義投手とともに勝ちパターンの一角を担っています。

 アマチュア野球担当時代の昔話に花を咲かせつつ、プロ入り後はケガにも苦労したそうですが、今年のブレイクの理由を聞くと感心する答えが返ってきました。

「自分のなかでは技術的にそこまで大きく変わった感じはないんですよ。でも、そうですね。やっぱり気持ちですかね」

 気迫を前面にほえるマウンドさばきでおなじみとなってきている彼ですが、普段はちょっとだけシャイなナイスガイです。なるべくマイナス志向を捨てて、とにかく攻める意識でひと皮むけたというような話でした。

 そんな池田隆英投手、田中正義投手もプロ7年目。やっぱりこのドラフト世代は咲き時がやって来ているのかもしれません。クールで精悍な顔立ちの佐々木千隼投手が、マウンドでほえて躍りまくるのはあまり想像できませんが、きっと何かのきっかけで再び復活の芽をつかめると信じています。そういえば昨オフにオリックスを戦力外となって、育成契約から今年7月に支配下に復帰した澤田圭佑投手も大卒7年目。彼は大学時代は明るくてやんちゃなイメージだったけど、お互いに刺激し合って一緒にリリーフ陣の一角を占める日がきてほしいと思うのは、決してぜいたくな夢物語じゃないですよね。

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