約15万人いる硬式の高校球児のうち、甲子園出場を掴めるのはわずか約0.5%の者のみ。そんな中、全員が甲子園の土を踏んだ4兄弟が沖縄にいる。しかし、その奇跡は日々の積み重ねによる根拠のある奇跡だった。
甲子園の土を踏んだ4兄弟
今から遡ること16年前の2002年。沖縄県では甲子園初出場の中部商が開幕戦で帝京と激闘を繰り広げ熱気に包まれた。そんな夏のある夜だった。上は小学6年、下は幼稚園年長となる4兄弟はおっとう(父)のもとへ真剣な面持ちでやってきた。
「おっとう、俺たちも甲子園に出て活躍したい。甲子園に行く方法を教えてよ」
不意にそう聞かれた父・砂川正美は真和志高校のエースとして甲子園出場を目指したが、あと一歩届かなかった。今でも「あの時、ああなっていたら」と思い返すほど、甲子園に行けなかった悔しさと甲子園に行くことの難しさを知っている。
「そんなの分かるんだったら誰でも甲子園に行けるよ」「とりあえず素振りしてこい」「まずは勉強しなさい」
普段ならそんなことを思ってしまいそうだが、正美は4兄弟のあまりにも純真な8つの瞳に感化された。それが奇跡の始まりだった。
「よし分かった。俺が甲子園に出て活躍する方法を教えてあげよう。今から5つのことを教える。その5つのことを信じて高校生になるまで実践したら甲子園にも行けるし、他の夢も叶うよ」
おっとうが教えた「黄金の5ケ条」
①夢を文字や絵など形に起こす
②夢が叶った時の自分の姿を想像する
「“なれたらいいな”って思っている人はたくさんいるけど、勇気を持ってすぐ行動に移せる人が夢を叶えるんだよ」
③ファンを作る、“挨拶の達人”になる
「目に見えない幸運が無いとなかなか夢は叶わない。その幸運を運んでくれるのは、“応援してくれる人”。“あいて(相手)よりも、さき(先)に、つたわる(伝わる)挨拶”をしなさい。そのためには勇気やタイミングが必要。でもこれが自然とできれば試合にも生きる。例えば打席で、投手の指から離れた球をしっかり見て“よし来た!”とタイミングを合わせて、しっかり振って打てる」
④履きものをきちんと揃える
「目に見えない幸運やチャンスがどんどん引きついてくる『コロコロ大作戦』。自分の使ったスリッパだけでなくても、コロコロと(向きを)変える。 誰かが見てなくても、今日は面倒だなと思ってもやるんだよ。友達に何か言われて恥ずかしくてもやるんだよ」
⑤声に出して「ありがとう」を言う
「人から何かを少しでも教えてもらったり、助けてもらったら“ありがとう”って感謝の言葉を言いなさい」
もちろんこの5ケ条を伝えた時は、まさか4兄弟全員が甲子園の土を踏むなど夢にも思わなかった。だが4兄弟はどんな時も忘れず、その日から毎日毎日実行した。時には周囲から冷やかされたりして恥ずかしい気持ちにもなったこともあっただろう。それだけに正美さんは「一番の敵は常に自分の心の中にあるんです」と話す。
「必ず何かをしようとする時は、それが良いことであっても“お前だけ何してんの?”ってささやく人は必ずいます。でも、そう言われても真剣に、バカがつくくらい真剣に、彼らはやったんです。当時の彼らにとっては甲子園が最大の目標でしたから、“そのために”と言いましたが、続けていていれば“習慣”になる。高校野球が終わってもやり続けられる人間になれるんです」
そして、それを愚直に実行した息子たちが、次々と野球少年なら誰もが夢見る甲子園へ足を踏み入れていった。