小泉「総理が言えば反対する人は少数派になるよ」
スミス「リーダーシップの問題ですよね」
元内閣総理大臣の小泉純一郎氏と、グリーン・アクション代表のアイリーン・美緒子・スミス氏が「原発ゼロ」の必要性について語り合った。(司会・構成=石井妙子)
小泉氏(右)とスミス氏
原発訴訟は根本的な解決にならない
小泉 大飯原発訴訟、勝訴したね。アイリーンさんは原告側の共同代表だったから、いろいろと大変だったでしょう。
スミス 国の安全基準を満たしていないため現在運転中である大飯原発の稼働は認められないと国を訴え、行政訴訟で勝ちました。でも、国が控訴したので、今また対応に追われています。
小泉 2月13日も大きな地震がありました。10年前の大震災と原発事故のことを思い出した人も多かったんじゃないかな。
スミス 福島原発は大丈夫かと、とても心配しました。地震のニュースを聞くと、その地域にある原発のことが頭に浮かびます。私は市民グループとして40年近く草の根で反原発運動をしてきました。裁判や市民の地道な運動で、どうにか原発推進の政策を遅らせられるけれど、根本的な解決にはならない。何十年も同じことの繰り返し。本当にヘトヘトになりますよ。
小泉 九州電力だって、最近新聞に出ていたけど、また原発を再稼働したっていう。どうかしてるんじゃない?
スミス ほんと。関西電力もそうですよ。私、25年間以上、関西電力の株主総会に行って議案を出しているけど、何も変わらない。
小泉 どうかしてるよ、経営者たちは。原発は衰退産業なのに。
スミス 福島の事故から10年が経ち、日本はまた同じことを繰り返そうとしています。しかも老朽化した原発を動かすと言っている。
小泉家と岡崎家の縁
小泉 アイリーンさんはお母様が日本人で、お父様がアメリカ人?
スミス はい。父は占領政策に関わったアメリカ人将校で占領期に母と出会い結婚しました。私は1950年東京で生まれ、今は京都で40年ほど暮らしています。
小泉 そうなんだ。
スミス 小泉さんのご家族とはちょっとご縁があって、私の母方の曽祖父が政治家だったんです。民政党の。岡崎久次郎といいます。
小泉 私の祖父、又次郎も民政党だよ。吉田内閣で外務大臣をした岡崎勝男さんじゃないよね?
スミス 岡崎勝男は曽祖父の弟で曽祖父の死後、政界に入りました。
小泉 縁があるな。私の祖父は戦後、公職追放されていたから家にいてね。私の遊び相手だった。1951年に86歳で亡くなったけれど。私が10歳の時に。5、6歳から花札を教わってね。こいこいとか。
スミス そうですか。
小泉 おいちょかぶとか。麻雀もね。祖父の仲間が家に来るでしょ。足りないと私が入ったんだ。だから、10歳までに花札と麻雀(笑)。祖父は盆栽も好きでね。あと、メジロやウグイスをかごで飼っていて。あの頃は擂り餌なんだ。だから擂り餌を作るのを手伝ったり。ニワトリも好きで10羽ぐらい飼ってたかな。朝、卵を取るのが楽しみだった。
スミス 羨ましい。私は母方の曽祖父も祖父(ミッドウェー海戦で戦死した山口多聞の弟)も戦前に亡くなってしまって。だから、直接には知らないんです。
小泉 私は福島の事故が起こる前までは原発を頭から信用していてね。推進派だったんだ。反省してます。
スミス 私は長く反原発の活動をしていて、このままではいつか大きな事故が起こってしまう、なんとかして止めたい、と思ってました。でも、福島が起こってしまった。
小泉 福島前から原発に反対していた人には敬意を持っています。
スミス 私はスリーマイル島の事故が起こった翌年、現地調査に入ったんですね。そうしたら、現地でアメリカ人たちに、「日本は地震国だから、まさか原発はないわよね」と言われて。その時まで私も日本に原発が何基あるか知らなかった。ハッとさせられました。そこからです。
小泉 私は福島の後、日本に導入された経緯から勉強して自分が間違っていたと気づいたんだ。それで原発ゼロ運動を始めた。
スミス 嬉しかったです。ついに自民党の元総理が「原発ゼロ」と言ってくれる日が来たんだって。
小泉 どっちかっていうと原発反対運動をしている人は反自民。
スミス そうですね。だって自民党が推進してきたから。だからこそ、自民党の元総理が発言してくれると、すごくパワーになります。
小泉 よく、そう言われるんだ。反原発は反自民だ、左翼だと見られている。そこに保守の私が言い出したから。これはもう、政党には関係ないことなんだと。
スミス 日本では反原発の運動をしているというと、なんだか近寄りたくない、ちょっと変な人のように見られたりする。それで、反原発って言いたくても言いにくい、と、おっしゃる方も多かったんです。特に福島事故の前は。
小泉 それも原発推進派の思うつぼなんだな。原発ゼロ運動をするのは反自民、革新勢力の人たちだって、今までそう見られていたんだけれども、でも、私は左翼じゃない(笑)。
今まで一人も抗議に来ないよ
スミス アメリカだと、もっと市民運動が普通のことなんです。原発を監視するNGOの中には、非常に大きな団体もあります。それに日本の報道は記者クラブ制度に問題があって、とても弱腰です。
小泉 総理時代は「原発は資源のない日本に必要不可欠」と思い込まされていたんだ。経産省は「原発はCO²が出ないし、コストが安い、安全だ」と言ってね。これ、全部、嘘だったんだよね。私は騙されていました。日本の原発推進論者の主張を信じてしまっていて。それで「過ちを改めざる、これを過ちと言う。過ちは改むるにはばかることなかれ」。この格言を思い出して。原発をゼロにしなきゃいかんと、声を大にして言うことにしたんだ。
スミス 誤りを認める方は少ないです。経産省から「小泉さん、やめてください」と言われませんか。
小泉 今まで一人も「やめてください」って抗議に来ないよ。私の言っていることが間違ってると思うなら、経産省は抗議に来ればいいのに。
スミス だって、正しいことを言っているから。自民党の原発推進派議員には何も言われませんか。
小泉 何も言ってこないよ。まあ、聞くような私じゃないってことは、分かってるから(笑)。私は河野太郎さんに「先見の明があったな」と言ったんだ。河野さんは福島の事故の前から原発は駄目だと言っていたから。今、大臣になって何も言ってないけど。言えばいいのに。
日本中の原発がもうすぐ寿命
スミス 総理時代に原発の危険性に気づいていたら、小泉さんは原発ゼロにしましたか。
小泉 もちろん。自分の総理時代に福島の事故が起きたなら、即、原発ゼロにしてます。経産省は原発は安全、低コストなクリーンエネルギーだから、もっと増やしましょうと言っていた。福島事故の前まで日本には54基の原発があって30パーセント程度の電源を供給していたわけだけど、経産省はまだ足りない、原発を100基まで増やしましょうって言ってたんだ。
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