皇室制度の安定的継承が危機に晒されている。そのような危機感から、法学者として20年もの間、研究や議論に身を捧げてきました。
ところが、憲法上、男女同権が明確に規定されている現代日本においてなお、女性天皇は容認されていない。よほど切羽詰まった状況にならなければ、決断することができない。それが悲しいかな、この日本の現実です。
この「よほど切羽詰まった状況」を一度、経験したことがあります。小泉純一郎内閣下で首相の私的諮問機関として「皇室典範に関する有識者会議」が設置された2004年、皇室では39年間男子が生まれておらず、皇太子さま(当時)、秋篠宮さまより若い男子の皇族がいなかったのです。
皇位は「皇統に属する男系の男子が継承する」とした現行皇室典範の下では、もはや安定的維持が不可能な状況でした。そうした中で、私が座長代理を務めた有識者会議では、主に女性・女系天皇に道を開くかについて議論することとなりました。
旧皇室典範が制定された明治時代以降、正統な皇位継承のあり方については様々な議論がなされてきました。それらを踏まえると、皇室制度の安定的継承のためには、「国民の理解と支持」「伝統」「制度の安定性」の3つが条件となります。
男女平等を謳う現代社会において、女性・女系天皇の誕生が広く国民の理解と支持を得ることは、これまでに多くの世論調査で8割以上の国民が賛意を示してきたことでも明らかです。直近では、2022年2月公表の毎日新聞調査でも、回答者の7割超が女性天皇を容認しています。
また、男系男子の「伝統」が崩れれば皇位の正統性が損なわれると反対派は主張しますが、これまでにも推古天皇をはじめとして女性天皇は存在しました。現行皇室典範制定時にも女性天皇の議論は活発に行われ、後世に託された経緯があります。広く国民の理解のもとに支持され、安定的に維持されていけば、女性天皇は、「伝統」と呼ぶに相応しい形となると考えています。
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source : 文藝春秋 2023年2月号