未知へとつながる欠片たち
科学の美しさや驚きのエッセンスを、ギューッとたくさん詰め込んだ本。読んで楽しく、見て心地よい。
科学は現象を要素に分解して原因を解明するので、それによって自然の美が損なわれるという感情的な批判や反発が今でも後を絶たない。もちろんこれはとんでもない誤解で、知識そのものが美しいこともあるし(オイラーの公式のように)、科学の知識によって新たにもたらされる見方にハッとさせられることもある(ダーウィンの進化論のように)。
この本は、そういった科学のささやかな驚きをひとくちサイズにそろえて、ビュッフェのようにたくさん並べたもの。冒頭の「雪の結晶」から最後の「ミルコメダ」まで、扱うトピックは全部で74個。「電気」や「ガラス」といった馴染みのある話題も多いが、ときに「多面体太陽系モデル」や「ディミディウム」など、少々マニアックな話題も顔を出す。ひとつのトピックにつき見開き2ページ、解説文とイラストがお互いに干渉しすぎず、さりとて遠慮もせず、絶妙のバランスで組み合わされている。

そのイラストが、どれもとても素敵だ。詩的に美しいものもあれば、ちょっとコミカルで微笑を誘うもの、ドラマの一場面のように前後のストーリーを連想させるものなど、スタイルも方向性も多彩で多様。装画も含めて12人のイラストレーターが、読む者の想像力をかき立てる作品を寄せている。
テイストの異なるイラストたちは、個々のトピックの独立性を高めていて、どこからどういう順番で読んでも違和感がない。これは一方で本全体の統一感を損ないかねないが、著者・古河郁による解説文が一貫して落ち着きのあるリズムを刻んでいて、多彩さを損なわない程度に全体のまとまりを生み出している。

この本を読み終わって一息つくと、私たち人間の限界や不遜さに、さりげなく気づかされる。ひょっとすると人間は、自分たちの感覚や感情をあまりにも重視しすぎているのかもしれない。「気持ちに寄り添う」とか「共感する」とか、もちろん大事ではあるが、時としてそれらは仲間内だけの結束を強め、より広い連帯を阻害することにつながりかねない。
これは、このレイアウトと装丁でなければ、つまり紙の本というメディアでなければ表現できないメタメッセージだろう。ネットメディアや動画では、こういった「余韻」を感じるのは難しい。近年ではちょっと得がたい経験である。
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