大切なのは「話す前」

安達 裕哉 ティネクト代表取締役
ライフ 働き方 読書

 著書がこれほど売れて、自分が一番驚いています。一昨年4月に出した『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)が76万部に達し、2年連続でビジネス書のベストセラーランキング1位となりました。

 話し方がテーマの本はたくさんありますが、「大切なのは話す前だ」と強く打ち出したところが新鮮だったのかもしれません。とは言っても、ロジカルにキチキチと詰めて他人を論破するようなコミュニケーション術を書いたのではありません。それは、一般には歓迎されませんから。

安達裕哉さん(本人提供)

 私は、デロイト トーマツ コンサルティングに12年勤めました。現在はマーケティングやAIの会社を経営していますが、新入社員時代は上司から「話す前にちゃんと考えろ」とさんざん𠮟られていました。

 本に書いた内容は、その頃に叩き込まれたプロのコンサルティング技術そのものなのですが、「これは、他の仕事やプライベートでも応用が利くはずだ」と以前から思っていました。また、この本では「頭がいい」とはどのようなことであるのかを突き詰めて考え、定義しました。その核心にあるのは、知識が多いとか頭の回転が速いといったことではなく、目の前の相手が何を求めているのか、何で悩んでいるのかを親身になって誠実に考えられることなのです。

 説明に使う事例をビジネスに限定せず、身近な題材にしたのは、担当編集者から厳しく注文された点でした。最初の原稿はビジネスの会話例ばかりで、「これでは一部の人しか買わないから、社長との会話なんかは全て削ってください。奥さんや友だち相手のプライベートな会話をたくさん入れたほうが、わかりやすくて面白いですよ」と指摘を受け、書き直しました。コンサルの仕事術をそのまま語る本はたくさんありますが、それをコンサル以外の仕事やプライベートにどう活かすかという本はあまり出ていません。その垣根を取っ払ったことも、読者に響いたのかなと思っています。とはいえこの本はマーケティングの定石に反しています。普通はターゲットを決め、そこへ刺さる方法を第一に考えます。しかし、この本の読者層の定義は曖昧で「若手ビジネスパーソン」となっていました。

 むしろ細かく検討したのは、書店のビジネス書コーナーのどの棚に置いてもらうか、です。話し方の棚には類書が溢れているので、思考法の棚に置かれることを狙いました。「そのジャンルには、まだヒットが出ていない」というのが、担当編集者の分析でした。

 実際には狙った層を超えて広がらなければ、ベストセラーにはならないようです。読者アンケートを見ても、90歳くらいのおばあちゃんから小学生まで読んでいて、なぜ手に取ってくれたのかが不思議です。女性の読者が半分以上いるのも、想定外でした。

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source : 文藝春秋 2025年5月号

genre : ライフ 働き方 読書