国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
筒井康隆さんの長編「48億の妄想」で、ニュースショーの出演者に〈架空の田舎言葉〉を話させて地方色を演出するくだりがあります。特に注意を引くのが〈お願いしますだ〉〈わかりますだ〉など「〜ますだ」という語尾です。
私は中学2年の時にこの作品を読み、「人工的な方言」の存在を知りました。「〜ますだ」など、いかにも方言的なことばを組み合わせて架空の方言を作ることは、たしかにあります。
方言以外に、漫画で偉い博士(はかせ)が「わしは科学者じゃ」、お嬢さまが「あら、よくってよ」などと言うのも、現実には聞かない言い回しです。こうした架空のことばを、日本語学者の金水敏(きんすいさとし)さんは「役割語」と名づけました。詳細は『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(岩波現代文庫)に述べられています。
創作で使われる架空方言は、全体としては架空でも、個々の要素の多くは実在します。たとえば、木下順二「夕鶴」のせりふも、各地の方言を混ぜて作っているそうです(金水前掲書)。
では、〈お願いしますだ〉〈わかりますだ〉の「〜ますだ」も実在する方言でしょうか。珍しくなさそうですが、調べてみても、案外資料が見つかりません。
「いや、私は使っているよ」と言う人もいるかもしれません。たしかに、「行くだ」「見えるだ」のように、動詞に「だ」をつける言い方は、関東・東海地方などに広く見られます。ただ、この地方では「ます」をつけて「行きますだ」「見えますだ」とは言わないようです。
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