「それぞれの戦場で」

第3回

エンタメ スポーツ
 

『あのシーズンはほぼ二軍にいたんですけど、6月の終わりくらい、連勝中に一軍に呼ばれました。僕が合流してからもチームはずっと勝っていたので、ロングリリーフ要員の自分はほとんど出番がなくて。役割といえば盛り上げ役ですかね。昇格してすぐ、投手陣のウォーミングアップの前に一発芸をやったんです。そうしたら(試合に)勝って、そこからずっと毎試合ネタをやることになったんです。もちろん、投手として試合で投げたかった。でも、悩んでる時間がもったいないんで、悩むくらいなら行動しよう、自分にできることをやろうと思って、ゲームの前の晩に次のネタを考えていました。

(2016年の)翔平はチームを引っ張るような存在でした。1番ピッチャーとか、そんなことやるなんて誰も思っていないですから。ベンチから見ていてアニメの世界にいる気がしました。僕はドラフト同期の中で最年長だったんで、入団したばかりの時期は翔平とか同期の年下の選手を自分の車に乗せて、よく買い出しに行ったりしていたんですけど、翔平はその頃から野球に必要のないことはしないという感じで、誰から遊びに誘われても断って、そのうちに周りの人間は誘っても無駄なんだと悟っていく。人に流されないというか、自分の意志をはっきり持っていました。

 翔平が手術をしたときですけど、彼が入院している病院に差し入れに行ったんです。そうしたら、翔平は病室のテレビでメジャーリーグの中継を見ていました。一緒のチームにいたんですけど、いつも今いる場所は通過点というか、目標はずっと高いところにあるんだなと感じていました』

(新垣勇人〔あらかきはやと〕)

 

 7月10日の日曜日、札幌ドームのグラウンドでは選手やスタッフが輪になっていた。まだ開場前のスタジアムには静かで、それでいてピンと張りつめた空気が漂っていた。北海道日本ハムファイターズは敵地福岡で首位ソフトバンクホークスに3連戦3連勝した後も勝ち続け、6月中旬から始まった連勝を伸ばし続けていた。そしてこの日、本拠地での千葉ロッテマリーンズ戦に、球団タイ記録となる14連勝をかけることになっていた。

 グラウンドにできた円陣には監督の栗山英樹やコーチングスタッフの姿もあった。誰もがこれから試合に向けてスイッチを入れていくのだが、新垣勇人にとっては、すでにこの円陣が大きな仕事の場であった。

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source : 文藝春秋 2025年5月号

genre : エンタメ スポーツ