一番よい家を買う方法

第13回

大栗 博司 物理学者
ビジネス サイエンス

 私がカリフォルニアに来たのは、今から30年前のことです。サンフランシスコ市から湾を隔てた対岸にあるカリフォルニア大学バークレイ校に教授として赴任しました。新しい環境への期待に胸を膨らませつつも、最初に直面したのは家探しでした。

 学科長が不動産エージェントを紹介してくれたので、早速売り家を見て回りました。大学の北の丘の上にはゴールデンゲートブリッジまで見渡せる閑静な住宅地が広がっています。サンフランシスコ市への通勤にも便利なので人気が高く、市場に出た家はすぐに売れてしまいます。

 気に入った家があっても、「もっといい家が見つかるかもしれない」と迷っていると、すぐに他の人に買われてしまいます。逆に焦って買うと、後になってもっとよい家が出てきて後悔するかもしれません。このような状況では、どうすれば最も満足できる家を選べるのでしょうか。

 同様の問題は、後にアスペン物理学センターの総裁になったときにも経験しました。就任直後に、25年間勤めた事務長が退職し、後任を探すことになったのです。

 公募をしてもすぐには適任者が見つからず、候補者が現れるたびに面接を繰り返しました。アスペン市は米国有数のリゾート地で、ホテルの支配人など条件のよい求人が沢山あり、優秀な候補者ほど他の職にすぐに流れてしまいます。家探しと同じく、「最高の人材を選ぶ確率を最大にする方法」が求められました。

 数学には、このような「最適な選択のタイミング」を考える分野があります。「最適停止問題」と呼ばれ、確率理論を使った戦略により最良の結果を得る方法を示してくれます。

 たとえば家探しの場合、最大で軒までの家を見ると決めておいて、その中で一番よい家を買いたいとしましょう。もし全部の家を一度に見ることができたら、迷わず1位、2位、とランクを付けることができて、同点はないとします。しかし、家は一軒ずつ出てきて、そのたびごとに判断しなければなりません。

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source : 文藝春秋 2025年5月号

genre : ビジネス サイエンス