「交換様式D」の具体化として
「やがてお金は絶滅する」という副題を持つ『22世紀の資本主義』の疾走感は、たまらない。「22世紀」にはお呼びでない我ら老害人間でも、こりゃまた失礼しました、と失礼する(死ぬ)には惜しい未来図が、楽々と描かれている。なにかとお騒がせな成田悠輔が、お馴染みの「○□眼鏡」で100年先を見せてくれる。軽いノリの文章だが、「22世紀の○□主義」に向かって、アルゴリズムの重低音に乗せて連れて行ってくれる先は、「民主主義」も「資本主義」も「20世紀的老害」とされる世界だ。
「つまり、経済によって政治を代替し、市場によって国家を代替できる可能性が芽吹いている。この社会像においては、市場vs.国家や政治vs.経済といった20世紀的な対立は偽の問題になる」

身も心も資本主義に組み込まれ、すべての行動がデータ化され、蓄積されていく現在の先になにがあるか。それぞれの人の「来歴データ」が、その人の多元的価値を表象して、お金の代わりを果たしてくれる。そんな世界がやって来る、というのだ。
データ化は徹底して進む。体内の健康生体情報も24時間データ化され、心までもデータ化する。「最後に待つのは、いわば私という存在のデータ化とインターネット接続だろう」。そして、すべてに資本主義が貫徹された極限で、資本主義は蒸発し、「第四次産業革命」が起きる。お金とデータのデッドヒートが始まる、というのだ。
その先に、猫が登場する。SF作家スターリングの「招き猫」で、招き猫は巨大な助けあいネットワークとして、「お金や国家と同じくらい大規模で、しかし自発的で匿名な親切網」を形成する。成田悠輔は、お金の代わりとなる「アートークン」を構想する。もうこうなると、とてつもない監視社会が来るのか、快適なユートピアが出現するのか、お手上げだ。でも、こんな思考実験がデジタルの中で行なわれているのには驚嘆する。
もっと驚くものが、最後にあった。「交換様式D」の具体化がここでは企てられていたのだ。「交換様式A(共同体)」、「交換様式B(国家)」、「交換様式C(市場)」の先の「交換様式D」は、柄谷行人によって哲学的に考察されている。「共同体の高次元での回復」として。
10代にしてその影響をモロに受けた成田悠輔が、「来たるべき交換様式D」を、データとアルゴリズムのデジタル社会の中に探っている。その未来構想は「ユートピアではない」と断言する。すぐそこ(22世紀)にある、というのだ。
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