昨年10月の衆院選での国民民主党の躍進を受けて注目を集めたのが「年収103万円の壁」だ。国民民主が引き上げを訴え、「働き控え」解消や会社員の手取り増につながるとされて、テレビのワイドショーでも盛んに取りあげられている。現在、与野党協議が続くが、長年、放置された根本原因は、「不都合な真実」を見て見ぬふりしてきたことだ。
公明党の西田実仁、国民民主の榛葉賀津也両幹事長は2月14日に会談し、自民、公明、国民民主による「103万円の壁」の引き上げ協議の膠着を打開し、再開することで一致した。自民が上限額を123万円への引き上げにとどめる中、国民民主は178万円で譲らず、公明がキャスティングボートを握ろうと間に入った形だ。公明・西田氏は「手取りを増やしていくという期待に応えることが大事だ」とし、2月中旬までには取りまとめが必要との見通しを示した。

11月や12月に人手が足りない
103万の壁は所得税の「非課税枠」。これを超えると本人に所得税が課税される、扶養者が扶養控除を受けられなくなり納税額が増える、扶養者の勤め先によっては手当に影響する—―などのケースがある。そこで、学生らのアルバイト、パートの働き控えが起きているというのが国民民主などの主張だ。103万とは別に社会保険料の負担が生じ、手取りが減る106万の壁や130万の壁もある。こうした壁を超えると「手取りが減ってしまう」と考える働き手が、とりわけ11月や12月になると仕事を控え、ただでさえ忙しい年末に人手が足りないというわけだ。
こうした壁の存在は、主には夫がフルタイムで働き、妻がパートで家計を支える「片働き世帯」をモデルとする国の考えが基になっている。現在では夫婦共働き世帯が増え、微修正を重ねられて来たが、ベースは変わっていない。
所得税にかかわる壁は、1984~1988年は90万円、1989~1994年までは100万円だったが、1995年に103万円に引き上げられ、以後、約30年間にわたって据え置かれたままだ。この30年間は経済大国だった日本が、バブル崩壊とともに凋落していく姿と重なる。OECD加盟国の国民1人あたりのGDPをみると、日本は2010年は13位だったが、2013年には19位に転落、2023年は22位にまで落ちている。
2012年末に誕生した第2次安倍政権が高支持率を維持できたのは、アベノミクスによる経済成長が一因と言われる。低金利と円安で国内経済は好景気とされ、企業の実績も上がり、各種の経済指標も上向きになった。安倍政権も「経済は復活した」「景気がいい」と喧伝した。

実質賃金は増えないのに、物価が上がる
ただ、冷静に振り返れば、一般国民の「景気感」は一向に上がらなかったのではないか。手取りは増えるどころか、減っていった。企業は対照的だ。2000年に200兆円弱だった企業の内部留保は伸び続け、2016年には400兆円、2021年は500兆円、2023年には600兆円を超えた。つまり、アベノミクスの果実は企業にとどまり、一般国民には行き渡らなかったわけだ。
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source : 週刊文春