眞紀子さん おめでとうございます。でも、これで黒塗りが出されたら話にならないでしょ。
雅子さん そうなんです、そこなんです。

森友事件を巡る情報開示訴訟で逆転勝訴した赤木雅子さん(53)。夫の俊夫さんは森友学園との国有地取引に関する公文書の改ざんを命じられ、悩み苦しんで命を絶った。真実が知りたいと雅子さんが起こした裁判で、国は上告を断念。不開示決定を取り消した雅子さんの勝訴判決が確定することになった。この裁判を応援してきた一人が、田中眞紀子元外相だ。裁判で意見書を出した元特捜検事の郷原信郎弁護士のYouTubeチャンネルで、雅子さんと3人、思うところを率直に話すことになった。
「夫が改ざんをさせられてからもうすぐ8年になります」
眞紀子さん もう8年ですね。
雅子さん そうなんです。夫が改ざんをさせられてからもうすぐ8年になります。次の年に亡くなった時、夫は54歳でした。

眞紀子さん 奥様はもうその歳になられた?
雅子さん そうなんですよ、もうすぐ。私、夫とは歳が8歳離れていました。夫が亡くなった時は自分が54になることはないだろうと思っていましたが、無事に迎えることができそうです。
眞紀子さん いやもう何とも痛ましいというか、政治の不毛というか無責任というかね。
眞紀子さんが手紙を送ったのがきっかけで
雅子さんと眞紀子さん。二人の結びつきは3年前、雅子さんの裁判で国の対応に憤りを感じた眞紀子さんが手紙を送ったのがきっかけだ。そこから手紙や電話でやり取りを重ね、東京・目白の田中角栄元首相の邸宅で会ったこともある。
眞紀子さん うちで父(角栄元首相)の仏壇を拝んでいただいて一緒にお食事したんですよね。そしたらご主人(俊夫さん)と一緒にうちの玄関まで来てくださったことがあると聞いて。そんなに父のことを思ってらした方がこんなことになって。辛かったでしょうね、ご主人様。
雅子さん そうですね、改ざんして亡くなるまで約1年、もう心が壊れちゃってたんです。「誰か助けて、誰が助けてくれるの」っていつも夜泣いてました。紐と遺書を持って何回も山に行こうとしたり。私は1回、馬乗りになられて首絞められて「お前がいたら僕が死ねない」って言われたこともあります。
眞紀子さん つらかったね~。
雅子さん でも夫は、近畿財務局から本省に、改ざんするべきじゃないっていうことをメールで送っていたんです。それと部下にだけは改ざんをさせなかったそうです。
眞紀子さん そういうことが世間で知られるといいですね。
「もうダメかなという気持ちになりました」
今回の裁判は、財務省が森友事件の捜査で検察に任意提出した文書の開示を巡るものだ。情報開示に詳しい弁護士から「負けるわけがない」と聞いていたが、一審では「将来の同種事件の捜査に影響する」という理由で敗訴した。改ざんを主導した佐川宣寿元財務省理財局長を相手にした裁判でも2連敗しているだけに、心にこたえたという。

雅子さん 負けぐせがついてしまって、もうダメかなという気持ちになりました。その時に、元検事の方に意見書を書いてもらったらというアイディアをある記者の方が出して。すぐに郷原先生を思い浮かべました。眞紀子さんからお話を伺っていたので仲介をお願いしました。
「私の検察官としての経験からみて…」
郷原弁護士は検察組織の在り方や安倍政権時代の森友事件などを徹底批判し、眞紀子さんと勉強会を行っていた。裁判で財務省の不開示の理由に対し「捜査に影響はない」という意見書を出した。控訴審の判決は意見書と同じ立場で、捜査への影響という国の主張を退け、雅子さんの逆転勝訴となった。
郷原さん 国の主張は、財務省が検察に提出した書類が明らかになると、今後同じような事件の捜査手法が推知されると言うんですけど。私も自分なりに工夫していろんな地検で捜査をしてきた経験で、こんな理屈はどこからも出てきません。検察の捜査はそれぞれの事件で異なるので、ある事件で出した資料から将来の捜査手法が推知されるなんてありえません。今回の赤木さんの訴訟は、どう考えたって負けるわけがない。それを負けさせた理屈が、私の検察官としての経験からみて、まったくでたらめなものだったわけです。

雅子さん 本当に郷原先生が書いてくださった意見書で勝つことができました。弁護団の先生がおっしゃるには、一審で私が負けた裁判を控訴審で勝たせるのは、裁判官は検察の仕事をしたことがないので、本当にいいのかって迷いもある。その時こういう意見書があると、お守り代わりになると話していました。先生の意見書が裁判所のお守り代わりになって裁判官の背中を押してくださったんだと。
眞紀子さん いい表現ですね、それは。
「やっぱり黒塗りのないものを出してほしい」
ことの真相を知るために今回の上告断念は大きな一歩になる。次はいよいよ本丸の情報開示に話が進む。文書はどこまで黒塗りなしで出されるか?
雅子さん 私は上告断念っていうのは本当に嬉しかったんです。もう一つお願いしたいのは、やっぱり黒塗りのないものを出してほしい。もうそれだけです。
眞紀子さん すべからく政治の問題なんですよね。この事件の原点は国民のものである国有地を森友学園に安く払い下げたことです。もうシンプルなことなんで。

郷原さん なぜここまで隠したいのか。当時、安倍(晋三)首相が「私や妻が関わっていたら総理大臣も国会議員も辞める」と言いました。そこから資料を廃棄したり決裁文書を改ざんしたり、一連の話が始まる。だから発端になったのは何なのかを知りたいっていうことなんですよね。
眞紀子さん 財務大臣が、たくさんの書類が検察から財務省に戻ってきてると言いましたから、全部出してもらおうじゃないですか。すべて出すのが当たり前です。
雅子さん 今回、石破(茂)首相がせっかく上告断念という決断をしてくれたんだから、今後どの範囲までオープンにするのかっていうことに関してもしっかりリーダーシップを発揮してほしいです。
国家公務員だった息子を自死で亡くした男性の切ない姿を
雅子さんの念頭には、自分と同じように真相を知りたいと悩み苦しんでいる自死遺族のことがある。裁判がきっかけで知り合ったある男性は、国家公務員だった息子を自死で亡くした。しかしパワハラがあったという訴えを職場が認めず、真相がわからないままになっている。自宅を訪れた時の切ない姿が思い浮かんだ。
雅子さん 自死遺族の方で情報開示を(請求)しても全然出ない方がいるんですね。裁判すらできない方が私の判決を喜んでくれて連絡くださったりするので、そういう方たちの希望になれたらいいなと思って。こうやって国が出したくないものも、頑張れば出してくれることがあるんですよって。
眞紀子さん 大変な人生ですね。お体気をつけて頑張って。頑張ってって言い方、無責任であんまり好きじゃないんですけどね。ご主人様がお元気だったらなんて言うんでしょう。「雅子、よく頑張ったね。こんなしぶとい女だと思わなかった」っていうかな(笑)。
雅子さん 何より今ここで眞紀子さんとお話ししていることを、「お前えらいことになってるな」って言いますよ。本当に私は大事にしてもらっていたので、少しでもお返しができたら幸せです。

情報開示請求に対しては原則30日以内に決定することになっている。正当な理由がある場合は30日以内に限り延長ができ、文書が著しく大量の場合は例外的な延長も可能とされている。まずは財務省がどう回答してくるのかが焦点だ。
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現在配信中の「週刊文春 電子版」および2月13日(木)発売の「週刊文春」では、森友事件の取材を続けるフリー記者・相澤冬樹氏が、『赤木雅子さんから石破首相へのメール 森友裁判上告断念で次は〈黒塗りのないものを〉』と題し、赤木雅子さんが上告断念を知った瞬間や、石破首相とのメールのやり取り、文書開示に関する今後の焦点などについてレポートしている。
また、この3者の鼎談については、郷原信郎弁護士のYouTubeチャンネル「郷原信郎の『日本の権力を斬る!』」で公開されています。
source : 週刊文春