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菅原一秀経産相「有権者買収」撮った――10月17日、選挙区内で決定的瞬間

「週刊文春」編集部
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「金品とは現金のことだと思った」。「メロン贈与」疑惑を問われ、国会で支離滅裂な答弁を口にした菅原大臣。ならば今回の写真についてどう説明するのか。小誌先週号の発売日。小誌カメラマンの目の前で、菅原氏の公設秘書が有権者に「現金」を手渡していた――。

菅原一秀経産大臣
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「疑惑のデパート」と呼ばれる菅原一秀経産大臣(57)の“面目躍如”だった。

 小誌先週号が発売された10月17日の夕方6時過ぎ。東京・練馬区にある「宝亀閣斎場」に一台の軽自動車が滑り込んだ。喪服を着た男は斎場のエントランスを進むと、香典袋を取り出し、恭しい様子で受付に手渡した。

 それから約20分後、斎場を出発した車が到着したのは、同区内にある菅原氏の地元事務所だった――。

 斎場関係者が証言する。

「この日、斎場で行われたのは、菅原氏の支援者である地元町会の元会長の通夜でした。多くの参列者が集まる中、菅原氏の代理として参列したのが、公設第一秘書のA氏だったのです。香典袋の中には2万円が入っていました」

 それは“有権者買収”が行われた決定的な現場だった。

「菅原氏の事務所には『衆議院議員 菅原一秀』と印字をされた香典袋が大量にあります。地元に常駐する公設秘書の3人は、それぞれ練馬東地区、石神井地区、大泉地区を担当し、有権者が亡くなると、エリア担当の公設秘書が通夜などに参列する習わし。彼らはいつ通夜があっても良いように常に香典袋を持ち歩いています」(同前)

 菅原氏と関係が深い後援会関係者が絶対匿名を条件に明かす。

「菅原氏は後援会のメンバーをA、B、Cの3つに分類しています。ランクによって香典の金額が変わり、例えばAランクの後援会関係者が亡くなったときの香典は2万円と決まっています。Bは1万円、Cは5000円~1万円が相場。秘書たちは後援会関係者が亡くなると、かならず菅原氏に報告をあげ、金額のお伺いを立てています。お金は秘書たちが立て替えることも少なくないといいます」

香典袋

 小誌は10月10日発売号で「菅原経産相『秘書給与ピンハネ』『有権者買収』を告発する」と題した記事を掲載。06~07年にかけ、菅原氏が選挙区に居住する100人以上の有権者の実名と住所が記載された通称“メロンリスト”を元に、メロンやカニ、いくらなどの高級品を送っていたという疑惑を報じた。

「その後、菅原氏は衆院予算委員会で野党の追及を受け『調査する』と答弁しました。現在は秘書がリストに記載のあった有権者に逐一電話を入れていると聞いています」(政治部記者)

 だが、その後行われたのは調査とは名ばかりの“隠蔽工作”だった。

菅原事務所の秘書を名乗る人から連絡があり……

 有権者の一人がいう。

「10月10日頃、菅原事務所の秘書を名乗る人から自宅に連絡があり、『うちからメロンは送りました? その件、うちは大丈夫ですよー』と一方的に言われました。まるで口止めのように感じたので『何度も贈答品を送ってきているじゃないか。いい加減にしろよ。もう電話してくるな』とはっきり言いましたよ」

 当初、官邸は菅原氏の疑惑について静観していた。

「菅義偉官房長官はマスコミに対し、『10年以上前のことだろ』と菅原氏をかばっていた。なぜなら、菅原氏は菅氏の側近中の側近であり、菅氏の推薦抜きでは重要閣僚に抜擢されなかった。もし更迭ともなれば菅氏の責任問題にも繋がるからです」(前出・政治部記者)

菅原氏は菅氏の「側近中の側近」

 だが小誌以外のマスコミが追及の構えを見せ始め、国会空転の気配も漂う。

「経産委員会が10月23日に開かれる予定でしたが、自民党は開催拒否。未だ次の日程が決まらない状態が続いている。自民が拒否する理由は他でもなく菅原氏を答弁に立たせたくないから。自民は『即位の礼で来日する要人との会談がある』と説明していますが、経産省の役人が慌ててアポを入れていました(笑)」(同前)

 だが、小誌が菅原氏の地元練馬区で取材を進めると、現在まで脈々と引き継がれる菅原氏の暗部が浮かび上がってきた。

 過去に菅原氏の指示で、有権者の通夜・葬儀に参列した元秘書が語る。

「10年ほど前は、選挙を意識していたのか、『衆議院議員 すがわら一秀』と黒のハンコが押された香典袋を使っていました。秘書が斎場に着くと、かならず受付で『衆議院議員の菅原一秀です』と言って香典を渡すのです」

 議員の代理として秘書が選挙区内の有権者に香典を渡すことの違法性について、神戸学院大学法学部の上脇博之教授が解説する。

「秘書が香典を代理で持参した場合、選挙の有無にかかわらず、公職選挙法で定められた『寄附の禁止』に抵触する可能性がある。冠婚葬祭について議員本人が出席することは法的に認められていますが、秘書が香典を配ることができれば、法律が骨抜きになってしまう。罰則規定は、50万円以下の罰金。さらに当選も無効になり、最長5年間の公民権停止となります」

枕花を有権者宅に手配

安倍首相

 実は、冒頭で記した有権者の通夜・葬儀において、菅原氏は、同じく公選法で禁止されている枕花を喪主の自宅に送っている。

 前出の斎場関係者が言葉を続ける。

「菅原氏は地元有力者の通夜には、必ず花を手配します。以前は『衆院議員 菅原一秀』という表記でしたが、今年9月に大臣になって以降、『週刊文春』の報道が出るまで、『経済産業大臣 菅原一秀』という立て札を施した花を有権者に送っていました」

 さらに小誌取材班は、公選法違反を裏付ける文書も入手した。10月14日付の菅原事務所が送付したファックスである。

「衆議院議員 すがわら一秀事務所」という記載の横には、ラガーシャツ姿の菅原氏がガッツポーズをしているイラストが記されている。宛先には、練馬区の生花店の屋号。同書は、前出の「宝亀閣斎場」で催された冒頭の通夜に際し、菅原事務所が喪主の自宅にサイズ〈大〉の枕花を手配したことを裏付ける発注書である(下記写真)。

公選法違反を裏付けるファックス文書

今年3月25日にも注文(写真左)

「10月初旬に文春が菅原氏を『有権者買収』と報じたため、事務所から(受注元の)生花店に『菅原の名前入りの札は立てないでください』という注文が来たようです。ただ、(同店が)枕花を遺族に渡すときは『菅原先生からのものです』と言って持っていくようにしていた」(同前)

 別の元秘書は「香典と同じく、花の手配が常態化していた」と証言する。

「有権者が亡くなると、秘書は『枕花を送りますか?』とLINEで菅原氏に確認を取るのですが、Aランクの場合は必ず送っていました。実際、生花店に手配するのは事務スタッフ。『菅原一秀です。枕花をお願いします』と(同店に)電話してからファックスを送る。花の送り先は葬儀場ではなく、だいたい喪主の自宅。葬儀場は多くの人が目にする機会がありますが、自宅であれば親族など限られた人しか見ることができないし、バレづらいという判断です」

 小誌が地元有権者を取材すると、菅原氏から「花を送られた」という複数の証言が得られ、今年1月以降、少なくとも15カ所以上に菅原氏が花を送っていたことが裏付けられた。

 今年10月1日、有権者の夫の通夜を練馬区内の斎場で行った遺族の妻がいう。

「主人が亡くなったのは9月27日のこと。菅原先生から自宅に“――大臣”という立て札がかかった枕花が届きましたよ。先生はお見えになりませんでした」

 その約半年前の3月29日夕方、冒頭と同じ斎場で菅原氏の支援者の通夜が行われた。同月25日付の発注書には、菅原事務所から同じ生花店に〈自宅へ枕花を送るようお願いします〉〈サイズは普通サイズでお願いします〉と記載されている。

 喪主である長男が次のように証言する。

「父親が亡くなったとき、菅原事務所から自宅に枕花が届けられたのは事実です。枕花を届けてくれた業者さんからは『これは葬儀場には持っていかないように』と注意されました。でも、この近所にはほとんど送っているんじゃないの。うちの姉の夫が亡くなったときにも菅原さんから枕花をいただきました」

 前出の上脇教授が次のように指摘する。

「供花や枕花は本人が葬儀に参列するかどうかは関係なく、公選法で禁止されています。そもそも、公選法は選挙の公平性を確保するためのもの。投票は自由な意思に基づいて行われるべきなのに『あの候補者はいくらくれた。何をくれた』という基準で投票をすると、それが崩れてしまう。公選法は、票をお金で買うことを禁止しているのです」

 菅原事務所ではこうした“有権者買収”が少なくとも10年以上にわたって続き、常態化していた。

 今年のGW前後のことだった。菅原事務所には菅原氏が関係先から入手したりんごが大量に搬入された。

 別の後援会関係者が証言する。

「改元を祝して作られた東北産の“令和りんご”で、『平成』『令和』という印字が施されたりんごが2個ずつパックされていました。政策秘書のB氏が菅原氏から『縁起物だから早く配ってこい』と命じられ、大量のりんごを紙袋に詰めて車に積み、練馬東地区に住んでいる後援会幹部に配り歩いていました」

 だが、そのうち予想を裏切る事態が起こったという。

「自動車整備工場を営む後援会幹部のX氏が『こんなの受け取れねえよ。寄付行為で法律違反だろ』と菅原事務所を訪れ、突き返したというんです。でも、後援会幹部の大半は“令和りんご”ならぬ“毒りんご”を食していました」(同前)

3万円の胡蝶蘭も配っていた

 菅原氏が経産大臣に就任したのは、それから約4カ月後の9月11日のことである。20年以上にわたり“共犯関係”を築いてきた後援会関係者たちは、大臣誕生の慶事に沸いた。

 菅原事務所には、連日、1鉢約3万円を超える豪華絢爛な胡蝶蘭が次々と運ばれた。

「菅原氏は『(有権者に)配れるものは配れ』という考えの持ち主。胡蝶蘭に目をつけた菅原氏は、秘書たちに『これを口の固い連中に配ってこい』と命じ、実行させたのです」(同前)

 菅原氏の支援者である飲食店の女性オーナーは「胡蝶蘭を秘書たちが運んできてくれた」と証言する。

「(胡蝶蘭を)届けに来てくれたのは菅原さんの(後援会が)主催するバス旅行に行った10月9日の夕方。私は植木鉢が欲しかったの。『1個か2個でいい』っていったんだけど、結局4個ももらっちゃった」

 女性オーナーが「これよ」と指差した自宅マンションのおどり場には、最初に納品されてから1カ月半近くが経った今でも艶のある胡蝶蘭が花を咲かせていた。

有権者に配った胡蝶蘭

「一秀さんは生花店に頼んで有権者に胡蝶蘭を贈ることもあります。例えば、10月上旬、練馬区内で12人の区民が東京都の功労者に選ばれたのですが、菅原氏はその全員に祝電を贈り、その一部には胡蝶蘭をプレゼントしていた」(菅原氏の知人)

 菅原氏の有権者買収に関与してきた公設秘書は小誌の取材に対し、どのように答えるのか。10月21日早朝、有権者の通夜で香典を手渡した公設第一秘書のA氏を直撃した。

――10月17日に菅原一秀と書かれた香典袋を持って行った?

「あの、いま、この時間って忙しい時間なのはわかりますよね。もう出ますんで。誰から聞いたんですか?」

 一方、“令和りんご”を有権者に配った政策秘書のB氏は小誌の電話取材にこう答えた。

――後援会幹部にりんごを配ったのでは?

「何もお答えしません、はい。もう切りますね、切りますよ」

 事務所関係者が、A氏とB氏の置かれた立場を慮っていう。

「常日頃、彼らは些細なミスをしても『馬鹿野郎。お前、公設(秘書)から私設(秘書)に落とすぞ!』と絶叫調で怒鳴られています。香典も枕花も菅原氏が決めたことは絶対。『これは法律違反です』と言おうものなら、クビを切られる。菅原氏は秘書を下僕としてしか見ていない」

 菅原事務所に問うと、次のように書面で回答した。

「故人は、後援会関係者であり、日ごろからお付き合いのある秘書が通夜に参列しました。菅原は翌日の葬儀に駆け付けその場で弔問し、香典をお渡ししました。香典は菅原個人からの支出です。お供え用の花を送っていません。(過去にも)選挙区内の葬儀に花は出していません」

 だが、前述したように、小誌は秘書が香典を手渡す瞬間を撮影しており、生花店に花を注文したファックスも入手済だ。過去に花を受け取ったという証言も複数、得ている。

 菅原氏の回答が事実かどうかは明らかだろう。

上:有権者に配った胡蝶蘭とカレンダー/下:「脱原発!」でも経産大臣

 また菅原氏は、令和りんご、胡蝶蘭の贈与についても、次のように否定した。

「(令和りんごは)事務所では確認していません。

 事務所にいただいた胡蝶蘭は置ききれなくなった一部を、複数の地元後援会関係者などにお願いして、一時的に預かっていただいたことはあります。その後、事務所に持ち帰り、現在預かっていただいているものはございません。またお尋ねの『花屋から発注した胡蝶蘭を有権者に送ったこと』はございません」

 だが、この回答後も、取材班は後援者宅に飾られた胡蝶蘭を確認しており、また生花店に胡蝶蘭を発注した文書も入手している。

「メロンリスト」に加え、今回明らかになった香典、枕花、胡蝶蘭、そして令和りんご疑惑。

 だが――。驚くべきことに、小誌には新たな情報が続々と寄せられている。

source : 週刊文春 2019年10月31日号

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