有吉佐和子の『青い壺』が、とんでもないことになっている。50年近く前の作品にもかかわらず、2011年に復刊されてから累計75万部を売り上げる勢いだ。流浪する一つの(きぬた)青磁の壺を次々と手にする人々の姿を描く全13話の短編集だが、この作品、連載されたのは『文藝春秋』1976年1月号から約1年、同号の巻頭記事は立花隆の「日本共産党の研究」だった。半世紀前の小説が、なぜ今、これほど注目を浴びるのか。書店員の丸善丸の内本店の高頭佐和子さん、NICリテールズの昼間匠さん、八重洲ブックセンター京急百貨店上大岡店の平井真実さんと、文芸ジャーナリストの内藤麻里子さんが語り合った。

※電子除く

『青い壺』(文春文庫)
ひとりの無名の陶芸家が生んだ美しい砧青磁。定年を迎えた夫の虚無、生前相続を迫る娘、シングルマザーに持ち込まれた縁談、45年ぶりにスペインに帰るシスター…人間の有為転変を、その美しい青い壺は全て見ていた。

内藤 皆さんは有吉佐和子作品に、どんな風に触れてきましたか。

高頭 実は私の“佐和子”という名前は有吉さんにちなんでいます。父と祖父がファンで、有吉さんのような賢い女性になってほしいという願いを込めたと聞かされて育ちました。有吉作品を読む前は、テレビで見た印象が強くて、なんだかちょっと怖い人と思ってたんですが、読むようになってからは、すごくいい名前をもらったと思いました。小学校から中学、高校の時によく読んでいて。大概クラスに有吉佐和子が好きな同級生がいて、よくいろんな話で盛り上がったりしたんです。

高頭佐和子

昼間 私は、もともと母親が有吉佐和子を好きだったので、大学の書店でアルバイトを始めた頃から手に取るようになりました。2000年あたりのことで、亡くなってから15年ほどたっていますから品切れもあり、明治・大正・昭和と三代にわたる女性の生きざまを描いた『紀ノ川』や、医療小説でもあり、一人の男性をめぐる母と妻のドラマでもある『華岡青洲の妻』など、代表作くらいしか文庫で読めなかった時代です。11年は既に書店で働いていまして、新しく読めるものが発売され、うれしかった。私は復刊というよりは、『青い壺』に初めて出会った感じです。

平井 実は今日も一冊、『青い壺』を売ってまいりました(笑)。ただ、私は有吉作品を全く読んでこなかったんです。そもそも本を好きになったのが大学生の頃で、本格ミステリーから入ったので。ただ、うちの母親が有吉さんや田辺聖子さん、サガンなどの外国文学をとても読んでいたので、文庫は家にありました。それなのに、なぜか手にしなかった。

高頭 私は小学生から読み始めたんですが、亡くなった女性実業家について多くの人がそれぞれの視点で語る『悪女について』や、演劇界の愛憎劇が絡むミステリー『開幕ベルは華やかに』が面白かった。あるいは『一の糸』『紀ノ川』など女の年代記が好きです。特にアメリカの人種問題を描いた『非色』は大好きです。その中で『青い壺』は、異色だなと思いました。

初回登録は初月300円で
この続きが読めます。

有料会員になると、
全ての記事が読み放題

  • 月額プラン

    1カ月更新

    2,200円/月

    初回登録は初月300円

  • 年額プラン

    22,000円一括払い・1年更新

    1,833円/月

  • 3年プラン

    59,400円一括払い、3年更新

    1,650円/月

有料会員になると…

スクープを毎日配信!

  • スクープ記事をいち早く読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
  • 解説番組が視聴できる
  • 会員限定ニュースレターが読める
有料会員についてもっと詳しく見る

※オンライン書店「Fujisan.co.jp」限定で「電子版+雑誌プラン」がございます。ご希望の方はこちらからお申し込みください。

週刊文春 電子版 PREMIUMMEMBERSHIP 第1期募集中 詳しくはこちら
  • 0

  • 0

  • 1

source : 週刊文春WOMAN 2025春号