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「チャーター機で札幌移動」IOC貴族と“日本人奴隷”

「週刊文春」編集部
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セバスチャン・コー氏
セバスチャン・コー氏

 5月5日、札幌のテレビ塔を背に、橋本聖子・五輪組織委会長と並んで優雅な微笑みを見せる英国紳士。彼の名はセバスチャン・コー(64)。IOC委員、そして世界陸連の会長も務めるスポーツ界の大立者だ。

 彼とともに来日したのはIOC委員や世界陸連関係者。華々しいVIPたちを札幌に運んだのは、貸し切られた旅客機だった。

 札幌市で行われた五輪マラソンテスト大会の視察、小池百合子都知事らとの会談などのため来日したコー氏。その経歴は華々しい。時事通信ロンドン支局の長谷部良太記者が解説する。

5月5日のマラソンテスト大会
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「陸上中距離で五輪金メダルを2つ獲得した、英国の英雄です。1990年の引退後は政治家に転身。2012年のロンドン五輪組織委会長を務め、成功に導きました。知名度と実務能力を併せ持ち、人柄は穏やか。IOC委員には昨年7月に選出されたばかりですが、既に存在感は際立っており、バッハ会長後継の有力候補と目されています」

バッハIOC会長

 男爵の爵位も有する、文字通りの“五輪貴族”。VIP御一行の移動に際し、組織委の配慮は並々ならぬものだった。札幌への移動に用意されたのはJALのチャーター機3便。

「計40〜50人が乗り込んだチャーター機が、羽田と新千歳間を往復しました。羽田では一般客と別ルートにするために、通常は国際線に利用する第3ターミナルから出発したそうです」(マラソン大会関係者)

“おもてなし”を受けて帰国したコー氏はこう語った。

「日本では、何度も同じ質問をされた。『オリンピックをこのまま進めるべきですか?』。私の答えはいつも明確に『イエス』だ。なぜなら安心で安全な形で開かれると信じているからね」

 ご満悦のコー氏とは対照的に、現場では悲鳴が上がっている。日本を巡っている聖火リレーだ。小誌は聖火リレー現場で相次いで車両事故が発生し、組織委が運営担当の電通に「厳重注意」したことを報じた(4月15日号、22日号)。

 だが、現場の過酷な状況は今も変わっていない。

5月17日、聖火は広島に。点火式は無観客

「スタッフは4カ月間、つきっきりでリレー運営に当たります。一日中現場で稼働したあと、長時間の運転を強いられる場合も。報道後も態勢は改善されるどころか、犯人捜しで空気は悪い。『文春には気をつけろ』と箝口令まで敷かれたようです」(リレー運営関係者)

 運営スタッフの親族が胸のうちを明かす。

「早朝6時前に出発し、日付が変わる頃に宿につく生活の連続。休日はほとんどなく、食事や睡眠も満足に取れない。たまの連絡で聞けるのは『辛い』という言葉で、毎日不安です」

 四国から九州へ移動した際は、深夜にフェリーに乗船し、男女雑魚寝。シャワーや食事はおろか布団もなく、部屋の電気は一晩中ついたままだった。明け方九州に到着すると、そのまま業務に当たったチームもあったという。

 5月14日にリレー運営関係者のコロナ感染が発覚すると、外食をやめるよう釘をさされたというが……。

「飲食店が開いている時間は業務中だし、朝はホテルの朝食時間より早く出る。コンビニのおにぎりを数分で食べるしかない。外食しているのは拘束時間の少ない管理側の人たちなのに、なぜ、下請けの人ばかりが責められるのか。まるで奴隷のような扱いで悲しい」(前出・運営関係者)

 5月16日、聖火リレーは島根県内を移動。運営スタッフの現場入りは朝7時。

「歩道からはみ出ないでください!」

 ランナーの伴走をしながら声を張り上げるスタッフ。着替えや休憩は車両内で行われるが、見物に来た市民から「これ聖火リレーの車?」と声を掛けられ、息をつく間もなさそうだ。

聖火リレー現場で奔走するスタッフ

「拘束時間は長いですね……」

 記者に対し、人目を気にしながらこぼす人も。表情には疲れがにじんでいた。

 そんな中、タクシーから降りて会場入りする人物が。

「組織委の職員です。彼らは基本的にタクシー移動。現場には管理役として派遣されますが、実際の仕事はランナーの通過地点で健康チェックシートを確認する程度」(電通関係者)

 運転手によると、メーターは朝5時から一日中回しっぱなしだという。

タクシー代一日10万円

「今日一日で10万円を超えそう」(運転手)

 仮に、121日間の聖火リレーで同様の利用がされた場合、金額は1000万円を優に超える。

 松江市でのトーチキスが終わり、スタッフが撤収したのは夜10時過ぎ。そのまま自身の運転で180キロ先の広島へ向かうという。

 疲労困憊のなかでも、ランナーが会場を後にする際には「素晴らしかったです!」と健気に拍手で見送るスタッフ。だが今繰り広げられている聖火リレーの光景は、決して“ランナーファースト”には映らない。一度は聖火リレーの中止も訴えた、島根県の丸山達也知事が指摘する。

丸山達也・島根県知事

「聖火リレーの先頭には音楽をかけたスポンサー車両が連なっている。これでは、一番の主役であるはずのランナーが目立たない。スポンサー車両を除くなどして改善すべきでは、と組織委に申し入れましたが、音量の引下げ以外は受け入れられませんでした」

 VIPの送迎に、職員のタクシーにと大盤振る舞いを続ける組織委。札幌チャーター機の費用について航空関係者が解説する。

「運航時刻や機体によって変動はありますが、数千万円はかかるでしょう」

 

 何とも豪気な話だが、そもそも1年延期により、五輪には3000億円近い追加費用が発生している。昨年9月、IOCと組織委はコスト削減のため大会簡素化に合意したが、その効果は約300億円にすぎない。

「五輪予算には満席を前提としたチケット売り上げ、900億円分も含まれる。無観客開催なら不足は確実。財務状況が厳しい組織委に支払い能力があるとは考えられず、都か国が補填するとなれば国民は更に負担を強いられる」(官邸関係者)

 一連の実態について組織委に訊いた。チャーター機については、

〈(海外関係者は、コロナ対策に鑑み)入国後14日間の移動は公共交通機関を使用せず、専用輸送に限ることとされ、政府と協議の結果、チャーター機で移動することが適切となりました。なお、3機のチャーター機は選手の専用輸送のために手配したところ、結果的に、これに世界陸連関係者が同乗した形になります〉

 組織委職員のタクシー利用についてはどうか。

〈一日に限られた時間内で数カ所回る必要があることから、タクシー等を貸切にして移動している場合もあります〉

貸し切られた組織委職員用のタクシー

 打ち出の小槌を振ればゴリン、ゴリンとおカネが出てくる――そんな気分でないことを祈るばかりだ。

source : 週刊文春 2021年5月27日号

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