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《インサイド・スクープ》菅政権、壊れた 閣僚5人がNO!

「週刊文春」編集部

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 きっかけは「ワクチン1日100万回接種」。閣僚から首相への批判が噴き出すようになった。

「できっこないことばかり」(武田総務相)、「自衛隊出すなんて聞いてない」(岸防衛相)。

現職閣僚も小誌に「対策がブレブレで酷い」と嘆く。

「菅さんのコロナ対策は右に左にブレブレで酷い。7月末までに高齢者のワクチン接種を完了なんて無理な話で、実際は年内に終えるのがせいぜいでは。周りに人がいないのも良くない。コロナだけでも担当閣僚をたくさん指名したのに、誰も詳しい人がいないんだ」

政権発足から8カ月が経った

 小誌の取材にそう訴えるのは、現職閣僚の一人だ。強い危機感を滲ませた言葉は止まらない。さらに、こう続けるのだった。

「結局、菅さんは純粋にアスリートのために五輪をやりたいというより、『自分がいかに政権を続けるか』しか考えていない。今は閣僚の間でも五輪の話は一種のタブー。このままやったら何が起こるか分からないのに、止めるっていう選択肢はもうないだろうな」

 閣内からも飛び出すようになった菅義偉首相への批判。だが実は、同じような不満を半ば公然と吐露している閣僚はこの人物だけではない。昨年9月16日の政権発足から8カ月余り。新型コロナウイルスの第四波が猛威を振るう中、菅政権に一体、何が起きているのか。

「それより、ワクチンだ」

 政治部デスクが言う。

「“仕事師内閣”を自任する菅政権では携帯料金の値下げや不妊治療への保険適用をはじめ、首相のトップダウンで閣僚に指示を出し、スピード重視で政策を実現しようとしてきました。実際、当初はそのやり方がうまく行った。昨年秋には学術会議問題などが一部で批判を浴びつつも、内閣支持率は5割前後を維持してきました」

 ただ、年明け以降、コロナ対応を巡って少しずつ不協和音が生まれていく。

「経済対策を重視する菅首相と、専門家に近い立場の西村康稔経済再生相との間では見解が相違するケースも少なくなかった。時に西村氏が『菅さんはなかなか耳を傾けてくれない』とボヤくこともありました。それでも、未曾有のコロナ危機を前に、閣僚たちは最後には首相の決断を受け入れてきたのです」(同前)

 ところが――。

 菅首相の“ある発言”をきっかけに閣内の雰囲気は完全に一変する。5月7日、緊急事態宣言の延長に伴う記者会見で、首相は突如としてこう宣言したのだ。

「一日100万回のワクチン接種を目標とする」

 官邸担当記者が解説する。

「首相は2週間前の4月23日に、『7月末までに高齢者へのワクチン接種完了』を掲げたばかり。全国3600万人の高齢者の2回接種を7月末までに完了するために、逆算した結果が『一日100万回のワクチン接種』だったのです」

 ワクチンは、菅首相がこだわる観客を動員した形での五輪開催のために欠かせない切り札だ。同時に、衆院解散や9月末の党総裁選への戦略にも影響を及ぼす。ここに来て、首相は周囲にこう漏らすようになった。

「もう緊急事態宣言でもまん防(まん延防止等重点措置)でも、どっちでもいい。それより、ワクチンだ、ワクチン。イギリスだってロックダウンより、ワクチンで感染が減ったんだから」

「ストレスだよ」と嘆く田村氏

 確かに、ワクチン接種が順調に進めば、感染拡大に歯止めをかけることはできるだろう。しかし、ただでさえ、諸外国に比べ、ワクチン確保で大きな後れを取っているのが実情だ。「首相と最も近い」(官邸関係者)と言われる日経新聞でさえ、5月11日付朝刊で〈接種加速へ能力なお不安〉と懐疑的に報じている。

「血圧が上がって、夜になると150に行くこともある。ストレスだよ」

 菅首相が「一日100万回接種」を表明した会見から5日後。5月12日夜、番記者らの前でそう吐露したのは、ワクチン行政を指揮する田村憲久厚労相だった。

「田村氏は、安倍政権時代にも厚労相を務めた厚労行政のスペシャリスト。首相も石破派から一本釣りで起用しました」(首相周辺)

ワクチン行政を仕切る田村厚労相

 4月下旬の緊急事態宣言発出にあたっては「期間を短くすべき」とする菅首相に対し、「絶対にそんなことはダメです」と強い調子で迫っていた田村氏。今回も「一日100万回接種」には反対していたという。

「『100万回』は、各自治体が捌けるワクチン接種回数を積み上げて出した数字ではありません。エビデンスが全くない。それでも、首相は『インフルエンザでも一日60万回打っているんだから』という理屈で押し切りました。自身の主張が一切聞き入れられなかったことで、田村氏は相当ストレスを感じているのでしょう」(厚労省関係者)

 これまで田村氏とともに徹底した感染対策を首相に訴えてきたのが、政府の新型コロナウイルス対策分科会を所管する西村氏。だが、その西村氏の苛立ちも、いよいよ“臨界点”を超えつつある。

 田村氏が血圧の上昇を吐露した5月12日夜。同じ日の正午、西村氏は首相と官邸でランチの蕎麦を啜っていた。首相が閣僚と昼食を共にするのは、約2週間前に梶山弘志経産相と食事をして以来のことだ。2人きりのランチタイムは30分余りで終了し、西村氏は早々に部屋を後にする。

 そして、周囲にこう吐き捨てていたという。

「美味しくなかった。一致団結感を出したって、仕方ない」

首相と衝突を重ねる西村コロナ相

 ここから、西村氏は覚悟を決めたような行動に踏み切るのだ。蕎麦ランチから2日後の5月14日朝、官邸ではこれまでではあり得なかった事態が起きていた。

西村氏が首相に覚悟の直談判

「感染拡大に西村氏や専門家は強い危機感を持っていましたが、13日夜の関係閣僚会合では首相の意向もあって、北海道への宣言適用を見送り、岡山や広島など5県にまん防を適用する案を固めていました。ところが翌14日朝、政府の分科会で異論が相次いだのです」(前出・官邸関係者)

 これを受け、西村氏は首相に「専門家は納得しそうにありません。宣言を出すべきです」と訴え出た。首相は「専門家が言ってるんだろ。仕方がない」と受け入れ、北海道と岡山、広島への宣言発令が決まる。

 すなわち、首相の方針が一夜にして覆ったのだ。加藤勝信官房長官も記者団に対し、「北海道は“でっかいどう”だからさ」と誤魔化すほかなかったという。

「西村氏は『この期に及んで閣内一致に構っている場合じゃない』との考えだったのでしょう。ここまでの直談判に踏み切ったのは初めてのことでした」(自民党幹部)

 首相への不満を見せているのは、コロナ対策会議の関係閣僚である西村氏や田村氏だけではない。「一日100万回接種」発言をきっかけに、首相が厚い信頼を寄せてきた閣僚からも、厳しい意見が飛び出している。

「できっこないことを、何回も呼び出されて、やらされている」

 そう口にしているのは、ワクチン接種業務を担う全国の自治体を取り仕切る武田良太総務相だ。

「武田氏は、麻生太郎副総理の反対を押し切ってまで、首相が自身の“天領”である総務省のトップに任命した人物。これまでも携帯料金値下げやNHK改革など肝煎り政策を次々と命じてきました」(前出・政治部デスク)

自治体を束ねる武田総務相

 その武田氏は4月27日、首相の指示で総務省に「新型コロナワクチン接種地方支援本部」を設立。副知事や政令都市の副市長と総務省幹部との1対1の連絡体制を構築し、ワクチン早期接種を強く働きかけることを掲げたものの、

「地方自治体からは不満が噴出しています。首相の出身地である秋田県でも佐竹敬久知事が5月13日、『厚労省でない省庁から電話が来た。簡単に言えば総理の顔を立てろということだ』『何でもいいから7月に終われと言われても、終わるわけがない』と厳しく批判しました」(総務省担当記者)

 トップダウンで「一日100万回接種」を通達された一方、煩雑な予約システムへの対応など自治体の現場では混乱が相次いでいる。

「叩き上げ議員の代表格である武田氏は『親分がカラスは白いと言えば、白い』と答えるようなタイプです。一方で、例えば河野太郎ワクチン相とは対照的に、官僚の立場にも理解を示す政治家。今回ばかりは、行政の現実を直視しない首相の強引な指示に嫌気が差しているのでしょう」(前出・政治部デスク)

 自治体を通じたワクチン接種には早くも暗雲が立ち込めている中、菅首相が打ち出したのが、自衛隊の動員だ。東京と大阪に「大規模接種会場」を開設し、接種の担い手として自衛隊の医務官、看護官の派遣を決定。5月24日から運営をスタートするが、

「(自衛隊派遣は、事前に)何も聞いていない。大規模接種会場の予約もオンラインになったけれど、必ず目詰まりが起こるだろう。だいたい、高齢者にオンライン予約は無理だ」

予約はオンラインが原則だが……

 そう不満をこぼしているのは、岸信夫防衛相だ。

「自衛隊派遣もまた、事前のすり合わせはなく、首相のトップダウンで決められました。医務官の数は限られており、5月10日には自民党の国防部会などで小野寺五典元防衛相も『自衛隊の本来業務に支障を来すのではないか』などと懸念を表明している。そもそも大規模接種会場でも接種見込みは2カ所で一日合計1万5000回程度に留まりますが、一日100万回接種を無理やり掲げたために、自衛隊の現場にまで皺寄せが行っているのです」(防衛省関係者)

自衛隊を束ねる岸防衛相

 西村氏、武田氏、岸氏は事務所を通じて発言については否定。田村氏は以下のように回答した。

「血圧については、夜になると上がるわけではなく、過去に上がったことがあるという程度のものです」

 さらに――。閣僚だけでなく、首相のブレーンからも厳しい声が上がっている。

「5月2日に首相と面会した楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は14日、米CNNのインタビューで『五輪開催は自殺行為』『(日本政府のコロナ対応は)10点中2点』などと辛辣に批判しました。菅政権で新設された成長戦略会議のメンバー、フューチャーの金丸恭文会長もワクチン接種の遅れについて、親しい知人には厳しい見解を示しているといいます」(前出・官邸関係者)

 金丸氏に真意を尋ねると、メールで回答があった。

「確かにワクチン接種は諸外国に比べると遅れているという印象は否めませんが、それは菅総理おひとりの責任とは思っておりません。ただ現状は、やはりコロナ対策を支援するデジタル化が進んでおらず、苦戦しているという印象です」

ブレーンは「開催国失格だ」

 同じく成長戦略会議のメンバーで小西美術工藝社社長の英国人、デービッド・アトキンソン氏。首相が官房長官時代から最も力を入れてきた観光立国政策のブレーンだ。4月25日にも、2人は1時間にわたって公邸で会談をしている。

 そのアトキンソン氏も小誌の取材にこう語るのだ。

「私のような外国人から見ると『諸外国がやっているように、なぜワクチンをガンガン打てないの?』というのが率直な思い。私は総理の責任より医療体制の問題だと考えますが、今の日本は、世界から見ると『本当に大丈夫なのか?』という状態です。実際、GWにイギリスで暮らす母親から電話があって『日本の医療は大丈夫なの?』と聞かれました」

首相ブレーンのアトキンソン氏

 五輪組織委員会の有識者懇談会メンバーとして、大会のコンセプト作りにも携わってきたアトキンソン氏。だが、コロナ禍で状況は大きく変わったという。

「日本は、自ら五輪を誘致した責任がある。安心して開催できるように万全を尽くすべきです。しかし、日本はコロナに関するデータをあまりにも公表していないので、諸外国の不信を招いています。例えば、死亡者数が過去の平均値をどれだけ上回っているかを示す『超過死亡』のデータを、日本はタイムリーに公表していません。こうしたデータ開示をしていない上、ワクチン接種も進んでいません。それなのに、国会では五輪で来日する外国人が感染拡大を招くという議論がされている。私は、五輪開催国として失格だと思います」

 首相のブレーンからも飛び出した「開催国失格」という痛烈な言葉。国民からも厳しい視線が注がれている。NHKの世論調査で内閣支持率は先月より9ポイント減の35%と過去最低を記録。時事通信の世論調査でも32%まで下落している。

「精度の高いNHKと、個別面接方式の時事の世論調査を首相は以前から最も重視しています。それだけに『落ちたね』と厳しい表情だった。五輪開催には依然、強気な反面、コロナ対策は裏目に出るばかりで『よく夜、眠れないんだよな』と漏らすこともありました」(前出・首相周辺)

 5月18日には、首相が注力してきた出入国管理法の改正案について、与党側は野党側に今国会での採決を見送る方針を伝えた。

「首相は『仕事をする政権』を標榜し、派閥が異なっても、仕事ができると言われる人材を要職に登用してきました。ところが入管法の例でも明らかなように、実際には菅政権では『仕事』が進まなくなっている。仕事で結びついていた政権だけに、そんな首相から閣僚やブレーンらが離れつつあるのです」(同前)

 4人の閣僚と、冒頭で政権の実情を訴えた現職閣僚。計5人の閣僚が首相に「NO!」を突き付ける“緊急事態”を迎えている。
 

高齢者が集まるワクチン接種会場

source : 週刊文春 2021年5月27日号

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