学生の頃、憧れで大好きで懐いて犬のようについて回っていた先輩が喫煙者だった。気管支が弱くて煙草を吸えないから、彼女が喫煙所にいる時はいつも少し離れたところからぼうっとその姿を眺めていたことや、たゆたう紫煙の中どこか遠くを眺める先輩がべらぼうに美しくて思わずうっとりしてしまったこと、見ている私に気づいた彼女が小さく手を振ってくれるのがたまらなく嬉しかったこと。『煙色のまほろば』には、そんな思い出さずにはいられない煙草がもたらす美しい光景のきらめきがぎゅっと詰まっている。

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source : 週刊文春 2025年6月26日号