週刊文春 電子版

第444回「Help!」

人生エロエロ

みうら じゅん
エンタメ 芸能
題字 武田双雲
題字 武田双雲

 人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた。

 向うからローリング・ストーンズのメンバーを乗せた船がやって来た。

 船着場近くにはこれから始まるワールド・ツアーの意気込みを聞こうと多くの記者が詰め掛けていた。

 大体のことはミック・ジャガーさんが語ったが、

「もう、お金も十分過ぎるほどあるのにまだ、ツアーを続ける理由は何ですか?」

 などと、否定的とも取れる質問に及んだ時、長年の相棒であるキース・リチャーズさんはその木目のような顔の皺を緩ませ、

「女を濡らしたいからさ」

 と、答えた。

 僕はその答えになってない答えに対し、流石(ストーンズだけに)だと思ったし、ケンイコスギ(コレ“権威濃過ぎ”ね)に陥らないためにもロケンロール!同様、キープ・オン・ロケンバーカ!の必要性を感じた。

 その模様をテレビで見て以降、僕は“ない仕事”を思い付いた時、先ず、バンド名らしきものを考えるようになった。ちなみに“ない仕事”とは、ジャンルのない仕事のことである。

『勝手に観光協会』(通称・KKK)は、頼まれてもないのに日本各地にツアーという名目で訪れ、頼まれてもないのに御当地ソング、マスコット、ポスターを勝手に制作、世に広めてるつもりの活動をいう。相棒はデザイナーでイラストレーターの安齋肇さんである。

「勝手にとはいえ、ツアー用の服はいるでしょ」

 相棒はそう言って早速、胸に付けるKKKのエムブレムを制作、お揃いのジャケットを用意した。その上、お揃いの白い帽子も被り、お揃いのロン毛を靡かせたわけで、これはどう見ても中年の不審者コンビ。

 ある時、鳴門の渦潮を見に行った。どちらも渦潮は初見ロールだったのでワクワクしながら船着場前の長い列に並んでた。中学の修学旅行だろうか、揃いの学ラン姿の一団が、これまた揃いのジャケット&帽子姿の僕らを見て何やらヒソヒソ話してるのが気になった。

 その一言が乗船する橋桁のところで漏れ聞えてきた。

「やっぱ、ビートルズじゃねぇか」

 相棒もその時、確かにそう聞えたと言った。

 それから一路、渦潮を目指し出航した。しばらくして、もうそろそろ現場に着くのでデッキの方へという船内アナウンスが入り、僕らも向ったのだが、

“えっ!? アレのこと?”

「今日は残念ながら小振りでした」その後、船長から済まなそうに入ったアナウンス通り、それはかなりガッカリするものであった。

 
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 学生の一団も同様で、そのやるせない気持を何かで元を取りたかったのだろう。デッキに立つ僕らに向って「あの、ビートルズさんですよね、いっしょに写真撮って貰えますか?」と、言ってきやがった。

 どんなビートルズの写真を見てそう決め付けたのかは知らないが、勘違いはなはだしい。しかし、僕らで穴埋めになるならと、そこは、「OK!」と英語で答え、その対応に追われることとなった。

 途中で引率の女の先生が騒動に気付き、止めに入ってくれたのはいいが、「みんな、ビートルズさんはお忙しいのよ。写真はここまで!」って、それ、どーゆーこと? 一団が去った後、相棒はもう一度、海に目をやり、「渦潮さえもう少しデカけりゃね」と、答えになってない答えを言った。

source : 週刊文春 2021年7月29日号

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