週刊文春 電子版

第445回「鼻で笑う」

人生エロエロ

みうら じゅん
エンタメ 芸能
題字 武田双雲
題字 武田双雲

 人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた。

 “天狗の赤は茹でた蟹

 天狗の鼻は伸びたナニ?

 天狗の下駄をはいた夜に

 天狗の山は闇の国

 テンと張ってグー

 テンと張ってグー

 LONGEST NOSE №1♪”

 みなさん御存知のようにと言いたいところだがこの歌は、みなさん御存知ないとは思うけど、僕が20年ほど前に作詞・作曲した『ロンゲスト・ノーズ№1』の一節。

 その頃のマイブームが“天狗”で、日夜、天狗のことばっか考えてたもんでとうとうCDまで発売するに至ったのだった。

 そもそも天狗の由来は中国で、流星や彗星が駆ける狗(犬)に似ていることから天の狗、天狗と名付けられたそうだ。

 しかし、それが日本に伝わり何故か山岳信仰の山伏の姿と結び付いた。

 赤ら顔で鼻が長いのは山に住み着いた外国人がモデルではないかという説も天狗に関する文献を読んで知った。

「天狗にする? 魚民にする?」というセリフはその頃からよく耳にしたが、僕はまだ、誰とも居酒屋で熱く天狗について語り合ったことはなかった。

 しかし、あの異常に長い鼻は盛り過ぎではないか? ここで当然、考えられることは歌詞にもある“天狗の鼻は伸びたナニ?”だ。

 古代からさまざまな意味で豊穣をもたらす呪力のあるものとされてきた男根。

 未だ、オレのは太いだの長いだのと、やたら勝ち負けに拘るルーツが天狗の鼻にあるのではないか?

 そう思うと何だか俄然、興味が湧いてきて、本来、不得意なはずの山登りも何のその(って、ほとんどはケーブルカーなんだけど)、天狗伝説を求めて旅をした。

 そして、その都度、土産物屋で天狗面を購入。群馬県の迦葉山では勢い余ってバカでかいのを買ってしまい、帰りはつらい旅だぜマウンテンだった。

 それを仕事場の玄関先にどっと並べ、掛けていたもので来客は驚きと同時に僕のことを“DS”(どうかしてる)と思ったに違いない。

 しかし、この面白さはどうしても広めたい。とうとう外出時にも通常サイズの天狗面を1つ、持ち歩くまでになった。

 新宿の飲み屋で友人と合流することになった時、僕はそれの入った布製のバッグを提げ、現場に向った。

 店の奥の座敷席で友人は彼女といっしょに飲んでいた。

 これは天狗の話題などになるわけないなと思ったが、奴がトイレに立った時、僕の傍らに置いたそのバッグの一部が妙に隆起していることに気付いたのであろう「ねぇ、そのバッグに何が入ってるの?」と、彼女は聞いてきた。

「何ぁーんだと思う?」

 僕はチャンス到来と、聞き返した。すると彼女は「絶対、エッチなものでしょ」と、笑いながら言った。

 僕は「そんなんじゃないよ」と、言ったまでは良かったが、取り出した勢いで天狗の鼻が折れ、単なる赤い顔のオヤジ面が現れた。

「何、コレ!?」

 彼女は気味悪がり、トイレから戻って来た友人は「お前、大丈夫?」と言って呆れた。

 僕は大恥をかき、慌ててバッグの中から折れた鼻先を出しくっ付けてみたが、これぞ正に“天狗の鼻をへし折られる”也。その後のプレゼンは全くふるわなかった。
 

 
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source : 週刊文春 2021年8月5日号

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