「お前の力をわかった上で契約している」沈鬱な表情の異国の打者に落合は言った。
(すずきただひら 1977年千葉県生まれ。日刊スポーツ新聞社に入社後、中日、阪神を中心にプロ野球担当記者を16年経験。2019年よりフリー。著書に『清原和博への告白 甲子園13本塁打の真実』、取材・構成担当書に『清原和博 告白』、『薬物依存症』がある。)
8月終わりのナゴヤドームは久しぶりに沸いていた。故障で戦線離脱していた主砲トニ・ブランコが3カ月ぶりに本拠地のバッターボックスに戻ってきたのだ。中位に停滞する2011年シーズン、ここから反攻が始まるはずだという期待がスタンドに満ちていた。
球団通訳の桂川昇はベンチからブランコを見つめていた。桂川の手には黒い革製の手帳があった。相手投手がブランコに投じる一球一球をそこに書き込んでいく。いつからか、毎試合そうするようになっていた。
3点を追う8回裏、巡ってきたチャンスに、ブランコのバットは大きな弧を描いて空を切った。188センチの4番バッターは眉間に深い皺を刻んでベンチに引きあげてきた。
きょうは長い夜になるかもしれない……、桂川はそんな予感がした。
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source : 週刊文春 2021年1月28日号