「人は誰でも努力と才能次第で成功できる」。私たちが社会の理想としてきた考え方が、実はエリートを傲慢にし、新たな階級社会を作り出している。11年ぶりに池上彰が「哲学ブーム」を巻き起こした教授に鋭く迫った。
(いけがみあきら 1950年生まれ。ジャーナリスト。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院特命教授。2005年にNHKを退局してフリーに。著書に『今を生き抜くための池上式ファクト46』など。)
(Michael J.Sandel 1953年生まれ。ハーバード大学教授。ブランダイス大学を卒業後、オックスフォード大学にて博士号取得。専門は政治哲学。著書に『これからの「正義」の話をしよう』など。)
池上 サンデル先生の著書『これからの「正義」の話をしよう』が世界中でベストセラーになった11年前、私はボストンのご自宅へお邪魔して、インタビューをさせていただきました。少年野球のコーチをなさっていたときの写真を拝見して、地元のボストン・レッドソックスの熱烈なファンでいらっしゃるお話も伺いました。

サンデル 我がレッドソックスは先日、ショウヘイ・オオタニに酷い目に遭わされましたよ(笑)。

池上 ご同情申し上げます(笑)。さて、新刊の『実力も運のうち 能力主義は正義か?』も、日本だけで7万部のベストセラーになっています。
サンデル 実は、これほど成功するとは思っていませんでした。読者層に対する痛烈な批判になっているからです。
池上 原著のタイトルを直訳すれば「能力の独裁」。平等な社会を作る条件だと考えられている「能力主義(メリトクラシー)」が、実は格差や不平等を生み、エリートを傲慢にさせ、社会に分断をもたらしていると書かれています。
サンデル この数十年の格差拡大で、勝者と敗者の溝は次第に深まり、勝者は実力によって現在の地位を得たという驕りを持つようになった。自分がその境遇にふさわしいと考えれば、底辺にいる人々もその境遇にふさわしいのだという独りよがりに陥ります。
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source : 週刊文春 2021年8月12日・19日号