ニュージャーナリズムを確立したあの本から、取材術を明かした新書や珠玉のノンフィクションまで。5人が語る。

『田中角栄研究全記録』 政治家の不正を暴く教科書 真山 仁

(まやまじん 1962年生まれ。作家。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者などを経て『ハゲタカ』でデビュー。『ロッキード』で初めて本格的ノンフィクションに挑む。他の著書に『プリンス』『それでも、陽は昇る』など。)

講談社文庫(現在は電子版のみ)

 政治家と言えば、世襲か、東大卒の官僚出身者ばかりだった1972年。高等小学校卒という学歴で総理大臣にまで昇りつめた田中角栄は「今太閤」「コンピュータ付きブルドーザー」と持て囃され、内閣支持率は70%近くという圧倒的な数字を誇りました。

 ところが、彼の栄華は2年ほどしか続かなかった。退陣の引き金となったのは、立花隆さんによる「田中角栄研究―その金脈と人脈」(月刊「文藝春秋」74年11月号)。雑誌が出ると、彼を支持していた日本中の人々が掌を返したように貶め、角栄びいきだった私の両親まで「あいつは悪い奴だ」と言うようになったのです。当時、私は中学生でしたが、はっきりと覚えています。

 立花さんの『田中角栄研究 全記録』は、上巻では角栄の金脈に関する数編の雑誌記事、下巻ではロッキード事件関連の雑誌記事などが収録されています。

 当時から角栄へ興味を抱いていましたが、私が本書を手に取ったのは2017年です。その頃、「世の中をあっと言わせるようなものをやりませんか」と編集者から提案され、昭和の大疑獄を書くため資料を集めていました。角栄やロッキード事件をテーマにした書籍は100冊以上刊行されていますが、そのすべての始まりはここにある。事件から40年以上経っても、まだ明かされていない要素はどこにあるのか――取材へのとっかかりを探そうと考えたのです。

 本書は、まさに政治家の不正を暴く教科書のような一冊と言えます。

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source : 週刊文春 2021年8月12日・19日号