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ネットフリックスが日本で生まれない理由|三木谷浩史

三木谷浩史「未来」 第8回 

三木谷 浩史

連載

ビジネス 社会 経済 国際 企業

(みきたにひろし 1965年神戸市生まれ。88年に一橋大学卒業後、日本興業銀行(現・みずほ銀行)に入行。退職後、97年にエム・ディー・エム(現・楽天グループ)を設立し、楽天市場を開設。現在はEコマースと金融を柱に、通信や医療など幅広く事業を展開している。)

 今からもう15年ほど前、楽天はTBSの株式を買い進め、業務提携を提案したことがあった。当時、この提案は報道でも様々な報じられ方をしたものの、結果的にTBS側から大きな反発を受けて上手くいかなかった。

 交渉の内実については今も言えないこともある。ただ、国からライセンスの割り当てを受けるテレビ局は、その既得権益が手厚く保護されている代表的な業界だ。そうした業界の内部からはスピード感のある変化は起こり得ない。よって、その時僕が繰り返し話していたのは、テレビがインターネットにつながる時代がすぐそこに来ており、IT企業と放送局が組めばお互いに様々なメリットがある、という一点だった。

 今でこそテレビとネットの融合は目の前にある現実だが、2000年代の初め頃は、まだ多くの人がその「未来」に対して疑念を抱いていた。例えば、2001年にアメリカではCNNを有するタイムワーナー(現・ワーナーメディア)が、大手ネット企業AOLを買収している。新旧の大手メディア企業の統合は「世紀の大合併」と呼ばれた。ところが、同社は2年後には業績が振るわずに巨額の赤字を計上する。そのインテグレート(統合)が「失敗」に終わったことも、「インターネットメディアと既存メディアの融合はまやかしだ」という雰囲気を市場に生み出していた。

 だけど、TBS側との交渉ではそうした本質的な議論が始まる様子もなく、単純に「若造に自分たちの庭を荒らされた」という感情だけが相手側にあったように思う。既得権益であるライセンス事業に新参者を入れたくない――それが彼らのむき出しの本音であり、その中でいくら「インターネットとテレビの融合」と言ってみても、話が通じないというのが当時を振り返っての僕の感想だ。

「未来志向」の金融市場

ネットフリックスのリード・ヘイスティングスCEO

 今では「電波事業がこのままでは衰退する」という危機感は、彼らの組織の内部でも大きくなっているはずだ。ただ、それでも既存のテレビ局がマスメディアの覇権をかろうじて握り続けていられるのは、コンテンツの制作力と資金力が彼らの側にまだあるからだろう。

 そんな中で、その力関係や構造をひっくり返しつつある象徴的な存在がある。ネットフリックスだ。

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source : 週刊文春 2021年8月26日号

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