東京オリンピック・パラリンピックの開会式と閉会式でのショーディレクターを務めていた小林賢太郎氏が、過去にお笑い芸人だった時代に、ユダヤ人が大量虐殺された事件を揶揄していたことがわかり、解任されました。
解任されたのが開会式前日だったので、辛うじて間に合ったというべきでしょう。もし解任されずに曖昧なまま開会式を迎えたら、イスラエル選手団の入場行進ボイコットになったかも知れませんし、アメリカのバイデン大統領のジル夫人も出席できなくなった可能性があります。
さらにIOCのバッハ会長はドイツ人。ドイツはナチス・ドイツの所業に厳しい態度をとっていますから、開会式に出たら致命的。IOC会長が出席しないという前代未聞の事態になりかねなかったのです。
「過去のお笑いのネタではないか」と軽く考える人もいるようですが、これは国際的には大問題。日本がいかに人権問題に鈍感かを示す結果になったのです。
その点で言えば、この問題が発覚した当日、オリンピック組織委員会の橋本聖子会長は記者会見したときに「これは外交上の問題もあると思っている。早急に対応しないといけないと、解任の運びとなった」と説明していました。「外交上の問題もある」? ユダヤ人揶揄をめぐっては国際問題になるということを言いたかったのでしょうが、これは「外交上の問題」ではありません。人道上の問題なのです。
私は大学の講義やテレビ番組の解説で「ホロコースト」(ユダヤ人虐殺)を何度も取り上げてきましたが、お笑いのネタにする人がいたり、それが長年見過ごされてきたりしたことに衝撃を受けています。これまで自分は何を語ってきたのかと反省しきりです。
そこで今回は、「ユダヤ人はなぜ差別されてきたのか?」をテーマとして取り上げます。世界の常識を確認しておきましょう。
それにしてもユダヤ人の歴史を振り返ると、実に苦難の歴史が続いてきました。世界史をひもとくと、古代エジプトで奴隷状態だった人たちが預言者モーゼに率いられてエジプトから逃亡(出エジプト)し、神に与えられた「約束の地」(カナン)に定住したという話が出て来ます。
また紀元前6世紀にはユダヤ人の王国がバビロニアによって征服され、人々は捕虜となって連行される「バビロン捕囚」があったり、紀元70年にはローマ帝国によってユダヤ人の王国が滅ぼされたりするなど、数々の苦難の歴史があります。
それでもユダヤ人たちは、自分たちが神から約束の地を与えられた、つまり「神から選ばれた民族」だという誇りを持ち続けました。
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source : 週刊文春 2021年8月26日号