台湾の感染対策を一手に引き受け、「鉄人部長」と呼ばれる陳時中・衛生福利部長は21日、現状の警戒レベル2(最高はレベル4)を来月6日まで維持すると表明した。事前にはレベル1への緩和への期待もあった。なにしろここ数週間は感染者数が20人以下で、1ケタの日もあったからだ。
コロナ抑え込みの優等生とされていた台湾は、4月下旬に英国型変異株の侵入を許し、警戒レベル3になった。レベル3は日本の緊急事態宣言、レベル2は「まん防」といった位置付けで、レベル1でほぼ平常生活に戻れる。今回、台湾は手を緩めない道を選んだが、今のところ不満の声は少ない。「ゼロコロナ」を貫こうとする蔡英文政権への信頼が揺らいでいないからだ。
5月から7月までの累計感染者は1万4000人。優等生から落第生へ転落かと思われたが、優等生に返り咲いた。猛威を振るうデルタ株に日本を含め多くの国が「陥落」。台湾でもデルタ株は確認されたが、打ち勝った希少なケースである。
台湾は中国のような強制的な措置を取らない。打った手は「水際」と「検査」の強化という当然の対策だが、やり方が徹底していた。
事実上自国民以外の入国を禁止して水際をきっちり締めた。加えて効果を生んだのが「快速検査」システムだ。すぐに検査結果が分かる抗原検査ステーションを津々浦々に設置し、有症状者、濃厚接触の疑いがある者が検査をすぐに受けられるようにした。ここで陽性反応が出れば、精度の高いPCR検査や医師の診察に進ませ、無症状を含めた感染者をスピーディかつ面的にあぶり出した。
感染者1人あたりの濃厚接触者の検査数は、7月末時点で台湾はおよそ1000人近くに達した。世界でも豪州に次いで2位になった。
政府と市民の信頼関係が揺らがなかった点も大きい。警戒レベル3は厳密な外出禁止措置ではないが、街角から一気に人影が消えた。「ここが正念場」との政府の呼びかけを市民が受け止め、対策に協力したのだ。
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source : 週刊文春 2021年9月2日号