週刊文春 電子版

大反響 セコマの「資本論」 何のために働くのか

《商品開発の現場に“潜入”》《「できない理由」が見当たらない》《自衛隊も評価する「物流力」》

伊藤 秀倫
ビジネス 社会 企業 商品
セコマの看板の「o」には「フェニックス」があしらわれている
セコマの看板の「o」には「フェニックス」があしらわれている

 コロナ禍でもコンビニ業界で唯一売上を伸ばしている、北海道発の「セコマ」。“脱成長時代”の経営モデルとして注目されている同社の戦略に迫った前回は多くの反響を呼んだ。なぜ強いのか。最前線の“現場”を徹底取材。

 

(いとうひでのり 1975年生まれ。東京大学文学部卒。1998年文藝春秋入社。「Number」「文藝春秋」「週刊文春」編集部などを経て、2019年フリーに。)

「色味がよくないなあ。このホタテじゃ、北海道の人は納得しないよ」

 用意された「てまり寿司」のサンプルを見た丸谷智保会長(66)の一言に場の空気が引き締まった。

丸谷会長
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 この日、本社の大会議室では、1カ月に2回の「商品決裁」が行われていた。端的に言えば、新商品を丸谷が片端から試食して「GO」か「ダメ」か、ジャッジを下していくのである。

 顧客満足度指数調査で、セブン・イレブンをも凌駕する北海道ローカルのコンビニチェーン「セコマ」の強さの秘密を探る上で、その「商品開発力」は見逃せないポイントだ。前回書いた通り、そもそも私がセコマに興味を持ったきっかけは、東京から札幌に移住して、何気なく食べた540円の「カツ丼」の完成度に衝撃を受けたからだ。

「安くてうまい」セコマオリジナルのリテールブランド(RB)商品はどうやって作られているのか――。

 商品決裁は、その秘密のカギを握る「奥の院」だ。

 会議室には、本社の商品開発チーム、工場の商品開発責任者、企画部門のデータ分析の責任者ら十数人が集まり、テーブルの上には所狭しとサンプルが並ぶ。

「商品決裁」の様子

 この日は、クリスマスから年末にかけて投入される予約商品の決裁で、てまり寿司は昨年の実績がよかった目玉商品でもあった。

「去年みたいにうまくいくとは限らないよ」という丸谷の言葉に苦笑する担当者。冒頭の指摘の後、丸谷はこう続けた。

「これ、去年、何で売れたと思う?」

「色、ですかね」

「そうだよな。やっぱり美しさがほしい。(サンプルを見ながら)このトビッコって、原材料費いくら?」

「××円です」

「そんなするの? だったら、(見栄えのする)別なものにしよう。その値段だったら何かあるよ」

 続いて試食したのは、季節限定のパック惣菜「きゅうりのごまあんかけ」。前回の決裁ではOKが出なかった品だ。一口含んだ丸谷は「前よりは、ごまの風味出てきたね」と言いながらも、まだ納得がいってないようだ。

「このタレは自前(惣菜工場)で作ったヤツ?」

「そうです」

「原価考えたのかもしれないけど、ちゃんと(グループの)タレ工場で作ってもらったほうがいい。きちんとできたら、季節限定じゃなくてもいけるよ」

 こんな具合に、この日だけで123品があらゆる角度から吟味されていく。

 取材してわかったのは、セコマのRB商品は原材料の確保から加工、その間の物流に至るまで、すべて自社グループで賄っているため、情報が「ガラス張り」ということだ。産地も原価も容器代まですべての情報が明確だから、どこをコストカットできるのか、逆に絶対に譲れない部分はどこかが、その場でわかる。「できない理由」が見当たらないから、話が早い。

 一方で、商品決裁においては、丸谷の発言権が強いことも否定できない。

 私は前回の原稿をこんな疑問で結んだ。丸谷の描く戦略――地域に密着し、品質に責任が持てるものを安く売る。右肩上がりに成長しなくてもいい――は立派だが、現場ではどこまで共有されているのだろうか、と。そこで今回は、セコマの「最前線」を取材した。

一日の走行距離は地球2周分

 道央における稲作発祥の地とされる長沼町。田園地帯を車で行くと、セコマグループの農業生産法人「北栄ファーム」が見えてくる。

長沼町にある農場(上・下)
 

 ここでは88棟のビニールハウスでキュウリ、トマト、ナス、長ネギなどの野菜が育てられており、収穫された野菜は翌日にはパック詰めされ、2日目の朝には店頭に並ぶ。セコマで売られている青果や惣菜などに使われる野菜のうち、25%超が自社農場で生産されているという。

 私が訪れたときは、キュウリが収穫期に入っていたが、これが会議室で見たパック惣菜となるわけだ。

「ここの野菜が最終的にどんな商品になるかをわかっているのは強みですね」

 同ファームの横山拓(専務取締役)は、そう語る。

「長ネギにしても焼き鳥に使うなら細くていいし、青果として店頭で売るなら太い方がいい。使用バランスが見えるので、育てる品種の微調整ができます」(同前)

 どの野菜をどのくらいの量、栽培するかというところから本社と綿密にすりあわせて決めていくという。

「ですから逆に野菜の生育具合によって、商品の動きも変えられます。例えば昨夏はトマトがたくさん穫れたので、それをふんだんに使って新商品のトマトゼリーを出しました」(同前)

 このトマトゼリーは私も食べたが、爽やかな甘みがたまらない逸品だった。

 冬のことを考えると、北海道での野菜作りは不利に思えるが、横山はこう語る。

「北海道の野菜の旬は夏ですが、その時期にスーパーで道産野菜が安いかというと、実はそうでもない。道産野菜は一種のブランドとして需要があるので本州に行ってしまい、地元の北海道では安く手に入りにくくなるからです。自分たちで作れば、旬に確実に穫れるので、その分しっかり値段も下げて売れるんです」

 値段を下げる工夫はそればかりではない。

 例えばビニールハウスの室温を保つためのボイラーに使用する燃料は、セコマの店内調理コーナー「ホットシェフ」でザンギなどを揚げた後の廃食油を再使用している。そのためには各店舗から廃食油を集めて農場まで運ぶ必要があるが、それを可能にしているのが、自前の物流システムだ。

 広大な北海道でモノを売るということは、いかにモノを届けるか、ということに他ならない。前身が酒卸業であるセコマは物流の重要性を理解し、そのネットワークを整備してきた。

 かつて広大な湿地だった札幌市郊外の大谷地は、今では各社が配送センターを構える一大流通団地となっている。道央におけるセコマの物流拠点「札幌配送センター」もここにある。

札幌にある配送センター(上・下)
 

 バックブザーの喧騒の中、約2万3000㎡の敷地にトラックがズラリと並ぶ様は「壮観」の一言に尽きる。

「だいたい今ぐらい(午後3時)から、『転送』のトレーラーが出始めるんです」と語るのは、セコマグループの物流を担う「セイコーフレッシュフーズ」の専務取締役、堤豪気だ。日配品(惣菜や牛乳のような鮮度商品)はほとんどここに集められ、各店舗の注文に応じてピッキング・仕分けをし、主要な配送センター(稚内、旭川、釧路、帯広、函館など)に送る。これを「転送」といい、各センターで仕分けた後、各店舗へと届ける。

「我々の主な仕事はこの転送のほかに、日々決まったルートで加盟店を順番に回って商品を届ける『加盟店配送』、商品を店におろした後のスペースに店舗の廃食油を積んだり、グループの工場を回ってRB商品を積んでここへ戻ってくる『集荷』があります」(同前)

 加盟店配送に回るトラックが180台、転送の大型トレーラーが30台、さらに冷凍車なども合わせると約250台が道内を走り回っているという。その一日の合計走行距離は7万キロ、実に地球2周分(8万キロ)に迫る数字だ。

「そういうとカッコいいのですが(笑)、その分当然、燃料代もかかる。ですから『いかにカラのトラックを走らせないか』が、とても重要なんです」(同前)

町役場から出店の要請

 どこで何をおろし、帰りに何を積むのか、電車のダイヤの如く綿密なスケジュールを組む必要があるが、これも物流が自前だからできることだ。他社なら、冷凍品、常温品、飲料などはそれぞれ違う場所で在庫され、問屋や運送会社も別だ。その運送コストは、商品の値段に反映される。

 ところでセコマの配送センターに足を踏み入れると、意外なほど整然としていることに気づく。商品を入れるバットやトート、さらには台車に至るまで、規格が統一されたものを海外から輸入しているからだ。

「台車3台分の横幅は、トラックの荷台の横幅に合わせています。トートも台車も折り畳めるので、荷台で余分な場所をとりません。またグループで同じ容器を使うことで、容器を選別する手間が省けます」(同前)

 かつてセコマ創業者の赤尾昭彦(元会長・故人)は、「ロジスティックス(兵站・物流)は、戦争に勝った国に学んだ方がいい」と語ったそうだが、在庫管理やピッキングシステムも海外企業と提携して独自に構築するこだわりようだ。

 では自前で物流を持つことのデメリットはあるのだろうか。しばし考えた堤は、「人のせいにできないことですかね」と答えた。

 2018年9月6日に起きた北海道胆振東部地震では、この配送センターも「全域停電(ブラックアウト)」に見舞われた。

「物流を他社に委託していれば『商品が入ってこないので』と言い訳できるかもしれませんが、ウチではそれは通りません」(同前)

 このセンターでは大まかに1階が出荷エリア、2階にカップ麺など、3階に飲料など、4階以上に「バラもの」と称される単品商品が在庫されていた。

「地震発生が夜中の3時ごろでしたが、センターは1時すぎから稼働していて、3階から飲料を100パレット(5000ケース)分、取り出したところでした」(同前)

 堤は既に出発していたドライバー全員の無事を確認し、急遽、石狩センターから発電機を取り寄せた。だがシステムがダウンし自動倉庫やラックが荷崩れしたため、商品はあってもそれを取り出す手段を失った。

「特にバラものは、ラックごと全部落ちて、手のつけようがなかった。だから地震前に出していた飲料とカップ麺をフォークリフトでとにかく1階までおろして当面の緊急物資にしよう、と」(同前)

 やがて、配送センターには、自身も被災したはずの非番のドライバーやスタッフが続々と集まってきた。

「冷凍車のドライバーに、荷台を常温にして電池や食品を運んでもらったり、総力戦でしたね」(同前)

 駐車場が広い店舗を臨時の配送拠点としてセンターからピストン輸送で運び、そこから先は本部の社員が各店舗に振り分けた。こうして地震発生後も、セコマは店舗に商品を届けることができたのだ。

 ちなみにセコマの「物流力」は自衛隊からも評価されており、2016年の熊本地震の際にも、要請を受け、カップ麺やミネラルウォーターなどを北海道からいち早く届けている。

 堤はセコマの物流を支える原動力をこう表現する。

「みんなモノを届けることに誇りを持ってるんです」

 こうしてセコマの商品は、北海道全179市町村のうち175市町村にある1078の店舗(取材時)へと毎日届けられるのである。

 その道内1078番目となる「豊頃役場前店」がオープンしたのは昨年12月のこと。かつて十勝地方の開拓の中心地だった豊頃町には既に「はせがわ豊頃店」があり、人口3200人の町に2店舗を出すメリットは一見なさそうに思えるが、セコマの佐々木威知広報部長はこう語る。

「町の真ん中を十勝川が流れていて、既存店はその東側に、新規店は西側にあります。その場所にはスーパーがあったのですが、一昨年に閉店してしまい、西側には買い物できる施設が何もなくなってしまった。そこで町役場から出店の要請をいただきました」

セコマ豊頃役場前店

「付加価値で稼ぐのは古い」

 出店前に住民に「置いてほしい商品」をアンケートした結果、店内には冷凍の海産物、小学生用の学習ノート、仏花などコンビニとしては珍しいものも並ぶ。

住民の要望で学習ノートも

 地元のタクシー運転手は、「特に仏花は皆さん、助かっているみたいです。このあたりは花屋がないので、以前は20キロ離れた池田町までタクシーで買いに行く方もいらっしゃいました」と自身の商売のことは脇に置いて、笑顔を見せた。

「おかげさまでお客さまの単価はセコマ店舗の平均よりも高く、町内の既存店の方も売上に大きな影響はありません」(エリア担当者)

 地元密着の店だけにスタッフと客との距離も近い。豊頃町に在住の女性スタッフは「ご高齢のお客さまなら、ご購入いただいたものをお車までお持ちしたり普通にしています」と語る。

豊頃町産の農産物も販売

 会長の丸谷は、セコマの強みを「コミュニティ・ロイヤルティ(地域への忠誠心)」と表現したが、取材した限り、セコマの最前線に立つ人たちは常に「お客さんが何を求めているか」を念頭に置いて動いている。

 昨今のコンビニ業界のマーケティングは、素材などにこだわった「高付加価値商品」で稼ぐ傾向が強いが、その付加価値分を負担するのは、実は客である。

「このやり方は古いと思うんです」と丸谷は語る。

「右肩上がりで売上を伸ばせる時代ならともかく、持続可能性が標榜される今の時代にそれでいいのか。高齢化社会とは、社会保障費で生きていく人が増えるということ。食に割ける金額は当然限られます」(同前)

 そんな時代には、付加価値のついたプレミアム商品よりも、安くても満足度の高い商品が求められる。

「そのためには品質を下げずにコストを下げる。僕はこれを『削減価値』と呼んでいますが、何も難しい話ではありません」(同前)

 例えばセコマの人気惣菜である「煮玉子」は、年間約800万個製造されるというが、そのうち5%は殻むきの途中で崩れるという。

「でも煮玉子としては使えなくても、玉子サンドの具やタルタルソースの材料としては十分使えるわけです。ウチはそれぞれを自前で作っているので、連携も容易です。そうやって歩留まりを100%近くにすれば、コストを下げることができます」(同前)

 業界では「ローカルだから成り立つ話」という声もあるが、取材するほど、セコマは「できることをまっとうにやっているだけ」ということに気づかされる。

 実は今の時代、それが一番難しいのかもしれない。

 1杯の「カツ丼」から始まった取材は、思わぬところに着地しつつある。

 誰のために商売するのか。何のために働くのか――。

 セコマの「資本論」が問いかけるものは、難しくはない。だが意外と重い。

(文中敬称略)

source : 週刊文春 2021年9月16日号

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