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ワクチン時代の高齢者コロナ対策「3つの罠」

《がん 高血圧の通院法》《介護やっていいこと》《認知症感染で進行の最新研究、家族が気づくには》

「週刊文春」編集部
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 緊急事態宣言の延長は必至。一方、長引く自粛により認知症、生活習慣病……さまざまな罠が忍び寄っている。これにはまらないためには、高齢者の9割がワクチン接種を終えた今、生活のモードを切り替える必要がある。

 

 9月12日で期限が切れる緊急事態宣言。だが、首都圏などでは解除は困難と見られている。まだまだ辛抱のときは続く。

 一方で、1年半以上の「ステイホーム」による“負債”が、身体に蓄積していることを忘れてはならない。それによってコロナに劣らない危険な罠が高齢者に忍び寄っているのだ。

“アフター・ワクチン”時代における、感染予防と心身の健康を両立させる生活――。それは、どのようなものなのか。

(1)「受診控え」中に血圧が危険な値に

 コロナ以降、多くの高齢者の足が病院から遠のいた。それを反映し、昨年度の医療費も前年に比べ過去最大の減少額を示している。

「病院でウイルスをもらっては本末転倒」と考えるのも当然だ。ただ、高齢者の約9割がワクチン接種を終えた今、病院に行かないことによるリスクがより大きくなっているといえる。

 たとえば高血圧。定期的な受診のたびに測っていた血圧が、通院を控えている間に大きく上がったケースもある。高血圧は最大の生活習慣病のリスク要因だ。

 池袋大谷クリニックの大谷義夫院長が指摘する。

「もともと高血圧の患者さんがいて、血圧を下げる薬を処方していました。ワクチン接種の機会に久しぶりに来院され、血圧を測ったら、180や190などの危険な数値が出てしまった。高血圧は痛みなどの自覚症状が伴わないため受診控えをしがちですが、それはリスクが高い」

大谷氏

 ましてや高血圧の患者はコロナの重症化リスクが高い。医療ジャーナリストの森田豊医師も警鐘を鳴らす。

「長引く自粛生活で太り気味や運動不足の傾向にある方は、知らず知らずのうちに血圧が上昇している可能性が高いのです」

森田氏

 最近は、多くの病院が感染防止策に万全を期している。体調に不安のある高齢者は、ワクチン接種が済んでいるなら迷わず受診すべきだし、日常的に病院から薬を処方されるような疾患があったのなら尚更だ。

 感染が心配なら、かかりつけ医に連絡し、「オンライン診療」ができないか相談しよう。スマホやパソコンの画面越しに診療を受ける方法だが、ちゃんと保険適用される。また現在は、初診からのオンライン診療も解禁されている。

 医師は患者の表情や話し方、体重の増減など様々な視点から診察を行う。オンライン診療は、医師が患者の様子を把握することをかなり補完してくれるのだ。

 去年、今年と定期検診を受けていない人も多いだろう。だがそれは、ときに命に関わる重大な疾患を見逃してしまう危険がある。

 順天堂大学医学部附属順天堂医院消化器内科教授の伊佐山浩通医師が語る。

「高齢者および胃がんの高危険度群といわれる方の、年に一度の胃カメラ。あるいはのう胞や膵臓に疾患を持つ方の定期検査。これらを怠ると進行したがんが見つかることがあります」

 伊佐山医師によれば、イギリスの大学病院で行われた内視鏡検査の結果を分析したところ、昨年1~3月の1週間あたりのがん発見数は平均677人。対して3~5月の発見数は283人。つまり、がんの発見数が約58%も落ちたのだ。最も発見数が下がったのは大腸がんだった。

「例えば胃がんの場合、早期がんが発生したからといって胃が痛くなるとか、吐き気をもよおすなど、具体的な不調はただちには出てきません。が、身体の中ではがんは進行してしまう。コロナ以前は比較的容易に発見できた胃がんや大腸がんの発見が遅れています。

『コロナが怖いから病院に行きたくない。大丈夫ですよね?』と連絡してくる方がいますが、医師からすれば大丈夫かどうかを確かめるのが検査です。検査をしないのもリスクだという意識を持ってほしい」(同前)

伊佐山氏

 順天堂大学では現在、検査を受けたら予約通り短時間で帰り、別の日に検査結果を聞きに行く「ウォークスルー検査」を実施。院内での滞在時間を減らし、感染リスクを下げる試みだ。

(2)コロナ生活は認知症と背中合わせ

 高齢者の大きな不安といえば認知症。ここにきて、コロナと認知症の関連を示す研究が発表された。

 今年7月、米テキサス大学などが、コロナに感染し、回復した約200人のアルゼンチンに住む人を調査したところ、6割以上に物忘れや言語障害などの認知機能障害が見られた。

 コロナへの感染が、なぜ認知機能に影響するのか。具体的にはまだ不明だが、森田医師はこう推測する。

「コロナの後遺症として、倦怠感、筋力や思考力の低下、睡眠障害などが指摘されています。これらが患者の心身を不活発にし、認知機能に悪影響を与えている可能性はあるでしょう。

 そもそも高齢者は自粛生活によって会話や接触が減っている。認知症になりやすく、進行しやすい現状なのです。他人との接触が乏しい人は、アルツハイマー型認知症の発症率が8倍高くなると言われています」

 コロナにかからずとも、自粛生活は高齢者の心身を衰えさせる。筑波大学大学院の研究チームの、高齢者を対象とした調査では、「物忘れがひどくなった」と回答した人は、昨年5月は12.6%だったが、11月には27.1%と、2倍以上も増えていたのだ。

 日常生活で物忘れが増えると、認知症を発症する前の段階として、軽度認知障害(MCI)に陥る。

「MCIの場合、物忘れが多くなったと自覚したり、人に打ち明けることが多い。しかし、それが認知症に進行すると『自分は物忘れなんかしていない』と言うようになります」(同前)

 森田医師によると、高齢者が自身でチェックしやすいアルツハイマー型認知症の初期症状は次の通りだ。

・目の前の知り合いとの関係性が思い出せない。

・食事したこと自体を忘れる。

・「あの人」「あれ」「これ」などの言葉をよく使う。

・会計をする際に小銭を出さなくなった(端数の計算ができなくなった)。

・身なりがだらしなくなる。

 本人が症状に気づけばよいが、やはりここで重要なのは家族の目。だが、この1年半、帰省もままならず、遠隔地で気を揉んでいる子世代も多いはずだ。

 介護アドバイザーで、総合情報サイト「All About」解説員の横井孝治氏がアドバイスする。

「電話で『元気?』『体調は大丈夫?』などとストレートに尋ねてもあまり意味はありません。親は子に心配をかけまいと嘘をつくものだからです。なので、例えば親が昨日や今日、どんな買い物をしたか、さりげなく聞いてみるといい。何を買ったか忘れていたり、同じ食材を続けて購入していたりすると危険信号です」

 認知症が進行すると、部屋の掃除や料理など、様々なことが億劫になる。

「実家の様子を目で見られない以上、これまで週に1回電話していたところを2回に増やすなど、密にコミュニケーションを取ったほうが細かい変化に気づきやすくなります」(同前)

 横浜労災病院で「心のメール相談」を行う心療内科医の山本晴義医師は高齢者の悩みについて語る。

「コロナの初期は、感染への不安を抱える方が多かったのですが、最近はワクチンを打った効果か、そういった相談は減りました。代わりに『子や孫に会いたい』と訴える高齢者が多い」

 緊急事態宣言が明け、親子ともにワクチンの接種を完了したら帰省も検討する段階だが、今はまだ辛抱のとき。Zoomやスマホのテレビ通話など、顔の表情が見えるコミュニケーションツールを利用すると、脳は対面したときと同じような刺激を受けるという。ある程度スマホを使える親なら、活用を検討したい。

 

(3)ワクチン接種で変わる介護施設利用法

 自粛生活が認知機能の障害を引き起こすかもしれない以上、感染リスクを下げつつも、コロナ前の生活に近づけていくことが基本。それはデイサービスなど、介護保険サービスに通っていた人も同様だ。

 高齢者施設でのクラスターが頻々と発生した結果、利用を控えてきた人も多いが……。

「週3回、30分以上の運動で認知症の発症リスクは下がるとも言われています。介護施設や職員の感染対策も徹底されるようになってきており、ワクチン接種を終えているのなら、積極的な利用の再開を検討すべき時期でしょう」(横井氏)

 特に体操やリハビリなどは、デイサービスの大きなメリット。積極的に活用したい。レクリエーションは、合唱や大声を出すゲームなどではなく、頭を使うパズルゲームなど、感染リスクに留意して選択しよう。

 家での過ごし方も重要だと、国立環境研究所の谷口優主任研究員が指摘する。

「最も大切なのは、じっとしている時間を減らすことです。座位時間が長くなるほど、がんや心血管疾患のリスクが高まる。テレビを観るときは、番組終了やCMのタイミングで立ち上がったり、その場でできるストレッチや体操をこまめに行いましょう」

 そして、密を避けつつ積極的に外に出ていきたい。大事なのは骨生成に関与するビタミンDだ。

「ビタミンDは魚類やキノコ類、肉類に多く含まれる。食事で摂取する以外にも、日光を浴びることで体内で生成できます。ビタミンDは“サンシャインビタミン”とも呼ばれており、太陽の光を浴びながら散歩をすることが効果的です。

 歩く速度が遅くなり同年代の人と同じペースで歩けなくなった、歩幅が狭くなり同年代の人と同じ足取りで歩くことができなくなったと感じる場合は、認知症の黄色信号です。いつもより少し大股で散歩することで認知症を予防しましょう」(同前)

 感染予防と心身の健康の両立。ワクチン接種を経て、それは新たな段階に入っているのだ。

source : 週刊文春 2021年9月16日号

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