週刊文春 電子版

第587回 佐藤輝明(阪神タイガース 内野手)「いまのままでは打てないと思うので、しっかり修正して早く1軍に戻れるようにしたい」

野球の言葉学

鷲田 康
エンタメ 社会 スポーツ

 前半戦の阪神快進撃の立役者だったルーキー、佐藤輝明内野手(22)が9月10日、ついに2軍に落ちた。

 8月21日の中日戦を最後に佐藤のバットからは快音が消え、登録抹消になるまで35打席連続無安打とドロ沼に嵌ってしまった。しかも8月29日の広島戦で先発落ちすると、その後は巨人戦2試合の先発を含めて11打席で10個の三振。見るも無惨な打撃内容となり矢野燿大監督(52)の中途半端な起用法に、疑問を投げかける声も広がっていた。

9月11日、2軍戦で復活の兆しとなる2塁打を放つ
全ての画像を見る(2枚)

「もっと早く決断すべきだったという声は、阪神OBを含めたチーム内外から聞こえてきます」

 こう語るのは在阪スポーツ紙の遊軍記者だ。

「もともと4打席立って、結果を残していくバッター。三振を3つしても、1本のホームランで調子を上げていくタイプですから、代打の1打席勝負というのはきつかったと思います。結果を残さなければというプレッシャーもあったはずですが、それでも本人の意地っ張りな性格もあって、とにかく負けずにバットを振り切っていた。それがまたインハイの真っ直ぐと外角の変化球というワンパターンの配球に、分かっていてもバットがクルクル回る悪循環になっていきました」

 ここまで泥沼に嵌る前に、矢野監督は少なくとも先発を外したところで一度、2軍に落として再調整をさせるべきだったという声が多く出ているという。

長嶋監督の“眼力”

 そこで思い出すのは、高卒と大卒の違いはあるが巨人1年目の松井秀喜さんに対する、当時の長嶋茂雄監督(現巨人軍終身名誉監督)の処遇だった。

 松井さんはプロ1年目に2回、2軍落ちを経験している。一度目はオープン戦で全く結果が出ずに、開幕で1軍メンバーから外れた。それでも約1カ月のファーム生活で打率3割7分5厘の4本塁打を記録して、5月1日に1軍デビュー。翌日にはプロ初アーチを記録した。しかしプロの世界はそう甘くない。再び安打も出なくなって、7月には二度目の2軍降格を命じられている。

「我々、期待で選手は使いませんよ」

 二度目の2軍落ちを命じたときに、長嶋監督があっさりこう言っていたのを覚えている。

「ちょっとした修正で良くなるのか、それとも土台からもう一度、やり直して再出発させるのかは、見れば分かります。いまの松井では、いくら上でやらせても打てませんから」

 結果的に1カ月余りファームで調整した松井さんは、8月中旬に再昇格。その後はコンスタントに結果を残し、それが2年目での本格化への道を切り開くことにつながった。そこがまさに長嶋監督の眼力だったのだ。

「二度目に落とされたときはショックでしたけど、いま思えば実力不足。ただ一度、上を経験した上で冷静に自分の打撃を見つめ直す機会を得たことが、その後につながったと思います」

松井氏もプロ1年目は苦労もあった

 後に松井さんもこの時のことをこう振り返っている。

「いまのままでは打てないと思うので、しっかり修正して早く1軍に戻れるようにしたい」

 ファーム落ちした際の佐藤の言葉学だ。

 現状では打てないことを一番、知っていたのは佐藤本人だったかもしれない。それでも晒し者のように打席に立って、三振を繰り返してきた。そんな自分の打撃を冷静に分析し、再構築できる機会を得たのだ。2軍落ちは、決してマイナスではないはずである。

source : 週刊文春 2021年9月23日号

この記事の写真(2枚)

文春リークス
閉じる