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70歳以上の10人に1人 脊柱管狭窄症「最新ガイド」 腰が痛い、歩くとしびれる、こむら返りはこれかも

「週刊文春」編集部
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 今やなじみ深い病名となった「脊柱管狭窄症」。だがこの病気、「腰痛」では片づけられない複雑さに満ちている。特徴的な症状は?なりやすい人は? 対策は? そして手術は? 4人のエキスパートにすべてを聞いた。

腰部脊柱管の立体モデル
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「最近、年のせいか、どうも腰が痛くてねえ……」

「それって“セキチュウカンナントカ”じゃないの」

 そんな掛け合いが聞こえてくるほど、今や高齢者の身近な病気として認知されている脊柱管狭窄症。

 確かに“腰の異変”はこの病気を語る上で重要なポイントだ。だが、疾患の全貌を正確に理解している人は、はたしてどれくらいいるだろうか。

(1)そもそも脊柱管狭窄症って?

 脊柱管とは、背骨の中にある筒状の空洞のこと。内側は硬膜に包まれた中枢神経と末梢神経の通り道になっており、脊柱管が狭まると、中の神経が圧迫されて様々な症状を起こす。

 それらの病態を総称して「脊柱管狭窄症」と呼ぶ。

 日本脊椎脊髄病学会理事長などを歴任した、脳神経疾患研究所常任顧問の菊地臣一氏が解説する。

「脊柱管狭窄は、椎骨や椎間関節、椎間板が変形したり、椎骨を繋ぐ靱帯が厚くなったりして起きます。主要な原因は加齢による変化で、70代になると10人に1人は発病しています。狭窄は腰椎に起きることが多く、他の腰の疾患が原因となるケースもあります。そのため脊柱管狭窄症といえば、腰部の狭窄症を指すのが一般的です」

菊地氏

 老化が避けて通れない以上、誰でも発病の可能性がある高齢者特有の疾患というわけだ。清水整形外科クリニック院長の清水伸一医師が補足する。

「ぎっくり腰や椎間板ヘルニア、腰椎捻挫、変形性腰椎症、変性すべり症など腰椎疾患はいくつもありますが、その“成れの果て”ともいえるのが脊柱管狭窄症です。加齢とともに有病率が高くなり、国内の推定患者数は580万人、予備軍は数倍にのぼるとも言われています」

清水氏

 ただし、腰由来の病気であるものの、留意すべきは“脊柱管狭窄症イコール腰痛”ではないという点だ。

腰痛も症状のひとつですが、この疾患の特徴ではなく、腰痛の有無は関係ありません。複雑な要素が絡まり合って病態を形成しているため、症状は多様。症状の程度や範囲も人によって異なるのです」(菊地氏)

(2)脊柱管狭窄症を見分けるポイントは

 では、どんな症状が出た時に脊柱管狭窄症を疑えばよいのだろうか。

「主な症状のひとつが『坐骨神経痛』です」

 そう語るのは、竹谷内(たけやち)医院院長でカイロプラクターの竹谷内康修(やすのぶ)医師だ。

お尻から太もも、足先にかけて痛みや痺れが生じる症状をいいます。しばらく立ちっぱなしだったり、歩き続けたりすると出る症状です。他にも、足の脱力感や、寝ている時のこむら返りを訴える患者さんも意外と多いです」(同前)

 腰椎椎間板ヘルニアも同じく坐骨神経痛の原因となる腰の病気だが、見分ける目安はある。

「椎間板の髄核が飛び出して後ろにある神経を圧迫する椎間板ヘルニアは、お辞儀の姿勢になると痛みが増します。対して脊柱管狭窄症は前かがみになると脊柱管が広がるため、大半の人が楽になる。逆に、腰を反らすと痛みが出る

 ただ、脊柱管狭窄は神経の押され方が複雑なので、ヘルニアを併発しているケースもある。お辞儀の姿勢で症状が出る人も10人に1人くらいはいます」(同前)

竹谷内氏

 下肢の痛みや痺れは、診断の決め手になり得る特徴的な症状にも繋がる。

 たとえば、最寄りのバス停や駅まで徒歩で向かったとしよう。家を出る時は何ともなかったのに、途中で足に疼くような痛みや痺れが出てきて、歩くのがつらくなってくる。立ち止まって腰を屈めると、症状はスッと収まる

 これは「間欠跛行(かんけつはこう)」といい、有病者の約7割に出る症状だ。少し休憩すれば回復し、また歩き出せるのがミソ。今まで難なく歩けた道のりを「休み休みでしか歩行できなくなった」人は要注意といえるだろう。

 気を付けなければいけないのは、坐骨神経痛と同様に、間欠跛行をきたす病態が他にも存在することだ。

「末梢動脈疾患という血管の障害でも間欠跛行が出るのです。血管の老化が原因なので、高齢者に多く発症する点では、脊柱管狭窄症と同じ。間欠跛行が血管性か神経性かを見極める必要があります」(菊地氏)

 こちらも判別方法の鍵となるのが姿勢だ。

「神経性は前かがみで休むと症状が改善し、自転車や杖を使うと楽に移動できます。対して、血管性は立ち止まるだけでも回復しますが、姿勢に関係なく症状が出ます」(同前)

(3)発症すると厄介な「馬尾型」

 加えて、脊柱管狭窄症が引き起こす症状は、どの神経部分が圧迫されるかによっても異なってくる。

「この疾患は、3つのタイプに分類できます。馬尾(ばび)型、神経根型、これら2つの混合型です」(同前)

 馬尾とは、腰部脊柱管の中心を通る神経の束。神経根は、椎間にある硬膜管から左右に1本ずつ出ている神経部分だ。つまり、圧迫されるのが、幹の部分か枝の付け根部分か、あるいはその両方か、の違いである。

「最も症例の多いのが神経根型。脊柱管狭窄症の約7割がこのタイプです。原因となる主な疾患には、年を取ると腰椎が変形する変形性脊椎症があります。圧迫される神経が片側なら片方の下肢に、両側なら両方の下肢に、坐骨神経痛が出ます」(同前)

 他方、発症すると厄介なのが馬尾型である。菊地氏が続ける。

「お尻、足全体に痛みより痺れが強く出るほか、膀胱直腸障害が出ることも。つまり残尿、尿失禁、便秘などです。最も多いのが残尿で、患者さんは膀胱におしっこが残っていることを自覚できなくなります」

 似た症状を起こす他の疾患には、男性なら前立腺肥大、女性はお腹に力を入れると尿漏れを起こす腹圧性尿失禁がある。それぞれ加齢が主な要因だ。

「排尿の障害に加え、下半身に痺れがあるかどうかが鑑別ポイントになります。馬尾型の狭窄は、腰椎が前後にずれる変性すべり症が原因になっていることが多い。変性すべり症は、40代以降の女性に多く見られる症状です」(同前)

 また、性器から肛門にかけての会陰部に火照りを感じるのも馬尾型の特徴。

「歩くと燃えるような灼熱感が生じる。男性の場合は陰茎が勃起することもあります。恥ずかしくてなかなか言い出せず、発見が遅れてしまうこともあるので注意が必要です」(同前)

 神経根型と馬尾型の併発した混合型がより深刻なのは、言うまでもない。

(4)こんな人がなりやすい

 このように多様な顔を持ち、一筋縄では読み解けないのが脊柱管狭窄症という病気。どんな人がなりやすいのか。竹谷内氏が語る。

「生まれつき脊柱管が狭い人はなりやすく、それは仕方ないとしても、狭窄の主な原因は加齢変化です。ではなぜ加齢で変化が起きるかといえば、腰に負担のかかる生活を長く続けていることが大きな要因と考えられています。要するに、腰の負担の蓄積です」

 ハイリスクなのは、肉体労働者よりも、むしろホワイトワーカーだという。

「デスクワーク等で同じ姿勢を長時間とり続けるからです。座っている時は、とめどなく悪い姿勢になっているものです」(同前)

 腰椎を含む背骨は、本来緩やかなS字カーブを描いている。中枢神経の通り道を保護するとともに、体を支える重要な柱でもある。

「デスクワークの体勢やスマホに目を落とす体勢は、頭が前方になりますよね。背骨のS字は逆C字形になり、重心のベクトルも前方にズレる。5~6キロある頭部をはじめ、上半身の重みが腰椎に圧し掛かっているのです」(清水氏)

 椅子に座って事務作業やパソコンを操作している体勢は、実は腰に大きな負担をかけているのだ。

 アンバランスな姿勢を一日に数時間、何年にもわたって続けることで、様々な腰の病気を引き起こす。そこに老化現象が加わった腰痛の最終形態が、脊柱管狭窄症なのである。

 また、脊柱管狭窄症は男性よりも女性に多い

「女性は、関節は柔らかいのですが、筋力や靱帯が男性よりも弱いため、腰に負担がかかりやすい。更年期を過ぎるとエストロゲンが減少し、骨密度も落ちてきます。また、専業主婦の方なら、料理、掃除や洗濯など家事全般で前傾の姿勢になりがちで、S字カーブが崩れ、骨や靱帯の変形が進みやすくなります」(同前)

右画像の脊柱管の丸で囲った部分が、狭窄により写らなくなっている

(5)どんな対策があるのか?

 対策としては、どのような心がけが必要なのか。竹谷内氏が語る。

「脊柱管狭窄症の方は、腰回りの筋肉が固くなっている人が多い。デスクワーク等で姿勢を維持しようと筋肉を使いっぱなしになっているためです」

 腰は腰椎から太ももの前部に繋がる腸腰筋と、背部にある脊柱起立筋で、前後から支えられている。狭窄症の予防にはこの2つを伸ばすストレッチが有効だ。

「腸腰筋は腹ばいに寝て手をつき、上半身を上に反らす。すでに症状が出ている方は悪化するのでやめましょう。起立筋は椅子に座ったまま、あるいは仰向けに寝転がった姿勢で、腰を折って膝を抱えるようにする。こちらは症状がある人でも大丈夫です」(同前)

 清水氏は「腰みがき(腰ケア)」を提唱する。

「日頃、習慣的に歯みがきをするように、腰の負担を取る動作を日常生活の中に取り入れる。これを『腰みがき』と言います。仕事の合間にでも、30分に1回程度、S字カーブを意識して腰を伸ばす、胸を張るといった動作だけでも構いません。3食の後、トイレに立つ時など、生活習慣の中に取り入れて、ちょっと腰の重心をリセットするだけでも変わってきます。

 すでに腰痛経験のある人は脊柱管狭窄症になるリスクが高いので、今からでも腰みがきを始めてください」

 日頃の積み重ねは、老後生活を大きく左右する。脊柱管狭窄症は「ロコモティブ・シンドローム」(運動器症候群)を招く主要原因にもなっているのだ。

 ロコモは筋肉や骨、関節などの障害により、移動機能が低下した状態。足腰の弱った高齢者が転倒によって手足や背骨などを骨折してしまうと、以降は杖や車椅子が手放せなくなることも珍しくない。その先にあるのが、要介護や寝たきりの未来である。

 前述の間欠跛行はまさにその過程にあり、足腰に痛みや痺れが出れば、転倒リスクも高まってしまう。

「足が痛む、痺れるから歩かない。すると、足腰が弱って、ますます歩かなくなる。こうした悪循環もロコモに発展します」(同前)

 もうひとつ、脊柱管狭窄症と相関する疾患に、うつ病がある。これは東京大学医学部が行った調査でも裏付けられている。

「症状が出ると、お孫さんと歩いていてもついていけない、友人と出かけても休み休みでないと歩けないという状況に直面することがあります。みっともないと感じたり、今後の生活に不安が募ったりして気持ちが落ち込み、うつ病になってしまうのです」(同前)

 菊地氏もこう語る。

「喜怒哀楽など感情を司る中枢神経と手足を動かす中枢神経は、相互に影響し合っています。心理的なストレスは痛みにも大きく影響する。そうした要素を取り除くことは、治療の側面としても非常に大きい」

(6)手術が必要なのはどんな場合か?

 では、すでに脊柱管狭窄症を疑う何らかの症状が出ている時、または今後症状が出てきた時、どんな治療を受けるのか。

 東京腰痛クリニックの三浦恭志院長が語る。

「診察では、いつからどんな症状があり、どこがどんな時に痛いのか、あるいは痺れるかを尋ねます。筋力の低下や知覚障害、つまり皮膚の感覚が麻痺していないかどうかも併せて確認します。すぐに撮れるのがレントゲンで、さらにMRIやCTで画像を撮り、診断を確定していきます。

 ただ、画像上の狭窄と患者さんの感じる症状が一致するとは限りません。画像も判断材料にしながら、症状の程度と期間の長さを目安に重症度を探ります」

三浦氏

 原則はまず保存治療。消炎鎮痛剤などを飲む薬物療法、患部に麻酔薬を注射するブロック療法、運動療法などがそれにあたる。

 菊地氏が語る。

「現時点では、確固たるエビデンスのある保存療法はなく、個人によっても効果は異なってきます。効くようなら続けて、効かなければ他の保存療法を試すことになります。ただ、脊柱管狭窄症で最も多い神経根型は、保存療法によって、自然寛解も含めて6割から7割の人が改善します

 ただし、保存治療は対症療法であり、狭窄そのものを治すわけではない。

保存療法を尽くし、もうこれ以上よくならないと行き詰った時は、医師と相談し、手術を検討することになります。ただ、手術して痛みは取れても、痺れが残ることはあります。受けるかどうかは患者さんの判断次第。登山やゴルフが趣味で、症状がつらい人は、それだけで手術適用になります。不安ならセカンドオピニオンを取るのも手。納得してから行うようにしてください」(竹谷内氏)

 馬尾型や混合型はいずれ手術となることが多く、場合によっては、すぐにでも手術が必要となる。

「膀胱直腸障害や、足が動かないくらい麻痺しているなど、重篤な神経障害が出ている時です。麻痺は、痛みを感じないこともありますが、症状としてはかなり重篤。一刻も早く手術をしないと、足が一生動かなくなってしまう恐れもあります。神経はもともと回復力の乏しい組織ですので、手術をする前に、一定の限度を超えて神経がダメージを受けていると、残る症状も出てきます」(三浦氏)

 一般的な手術は、変形して神経を圧迫させている骨部分を取り除く選択的除圧術。不安定さが懸念される箇所には、インプラントによる固定が加わる。

 1日も早い社会復帰を望む人や、体の負担を少なくしたい人には、保険が適用されない場合もあるが、最新の内視鏡手術もある。

「正常組織を壊す部分を少なくする『低侵襲手術』なので、体の負担を抑えるメリットがあります。狭窄部分を綺麗にピンポイントで除圧するので症状はよくなります。2泊3日の短期入院で済みます」(同前)

 なお、手術は高齢であっても受けられる。

「年齢というより、その人の元気さです。持病や合併症があって手術にリスクがある人はおすすめできませんが、最近は90歳を超えても元気な方はたくさんいます。健康であれば問題ありません」(同前)

 脊柱管狭窄症のリスクを高める老化は、年月をかけ誰にでも平等に訪れる。最後に清水氏はこう話す。

「自分の身は自分で守る心構えが必要です。脊柱管狭窄症にならないのがベスト。兆候があれば、いかに進行を抑えるか。腰は字にもあるように体を支える“要”であり、その意味で腰の疾患は全身病でもあります。日頃から体の使い方に気を遣うだけでなく、運動習慣も身に付け、筋力が低下しないようにしましょう」

 そして、いつまでも自分の力で歩ける体を保ちたい。

source : 週刊文春 2021年9月23日号

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