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「台湾と呼称する」中国の恫喝に屈せぬ小国の覚悟が…

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野嶋 剛
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 台湾の窓口機関「台湾代表処」の開設を、リトアニア政府が7月に認めたことが今、波紋を呼んでいる。問題は「台湾」という名称。台湾の大使館にあたる代表処には、中国への配慮から、国を意味しない「台北」などを冠するのが通例だった。人口280万人の小国リトアニアが、長年の慣例に反旗を翻した形である。

 リトアニアは自由主義を掲げ、中国のウイグル政策を「ジェノサイド」と批判するなど、中国と距離を置く。「身の程知らず」と激怒した中国は、リトアニア駐中国大使に退去を要請し、自国大使も召還。官民あげて反リトアニア行動に出た。

 だがEU諸国の駐中国大使が一致してリトアニア擁護を表明。EU議会の多くの議員も「中国政府の脅迫や嫌がらせがあるべきではない」と異例の支持を表すなど、リトアニアを応援する動きが広がった。

 さらに英国紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』が9月10日、米国の「台北経済文化代表処」の名称を「台湾代表処」へ変更することを米国政府が検討中だと報じた。記事は、米政府の対中外交キーマン、カート・キャンベルNSC調整官まで賛成の立場にあるとしている。FTの報道だけに反響も大きく、中国外交部の趙立堅報道官は「台湾独立勢力に誤ったシグナルを送るべきではない」と反発。人民日報社が発行する『環球時報』も「我々の軍機が台湾を飛び越えることになるだろう」と警告した。

 中国が警戒するのは「名称変更」がドミノ現象のように拡散することだ。

 台湾の窓口機関について、「ひとつの中国」原則を掲げる中国は、憲法上の国名の「中華民国」の使用にも、「台湾独立」をイメージさせる「台湾」の使用にも、強硬に反対している。ところが、その中国の主張に耳を傾けたくないと考える国が世界に増え始めている。

 もしここで米国がリトアニアに追随すれば、欧州だけでなく、日本や豪州など対中摩擦を抱える米国の同盟国にも波及しかねない。

 中国の覇権主義、香港やウイグル・チベットへの圧迫を、世界の世論が厳しく受け止めている昨今。民主・人権を重視し、コロナ対策でも成功する台湾を応援するほうが、自らの価値観に合致し、世論の受けもいい。一方、何事にも過剰なほど口を挟んでくる中国に対して、「いい加減にしてほしい」というムードが国際的に濃厚になりつつある。

 今回の問題の震源地になった欧州は中国にとって習近平の重要政策「一帯一路」の戦略拠点。台湾の窓口組織の名称変更問題は、来年秋の3期目再任へ邁進したい習近平の、思わぬ頭痛のタネになりそうである。

source : 週刊文春 2021年9月30日号

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