世界同時株安を招き、国際社会を不安に陥れている中国の不動産開発大手「恒大集団」の経営危機。約3000億米ドル(約33兆円)という、中国の年間国防費の約1.5倍に達する天文学的な負債を抱え、資金ショートに陥りつつある。
9月23日、人民元建ての利払いは実施したが、今後も利払いや元本返済のハードルが次々と現れる。一部事業の売却や停止も検討中とされるが、経営再建に進めるかどうかについて、大方の見方は悲観的だ。
もし破綻となれば2008年のリーマンショック級の大惨事となりかねない。通常なら「too big to fail(大きすぎて潰せない)」となるはずが、必ずしもそうなりそうにないのは、政府が“救済に乗り出さない”とのメッセージを出し続けているからだ。
今年3月、恒大集団の新事業である自動車会社を、国営新華社通信は多額の資金を集めながら1台も生産に至っていないとして「紙上造車(紙の上で車を作っている)」と名指しで批判、同集団の信用不安に拍車をかけた。中央政府が地方政府に対して同集団の破綻に向けた注意喚起を行うなど、その態度は冷淡そのものだ。
理由の一つは、習近平体制が打ち出した「共同富裕」構想の生け贄にするためだ。共同富裕は言い換えれば所得の再分配の強化。不動産の高騰は一般庶民が一生働いても買えないレベルに地価を押し上げ、人生にやる気を持たない「横たわり族」を生み出した。不動産バブルの象徴的な会社を潰すことで不動産市場に冷や水をかけ、共同富裕への期待を高める狙いだ。
習近平と敵対する江沢民氏を中心とする上海閥との権力闘争がらみとの見方もある。1990年代に許家印氏が裸一貫で創業した恒大集団は江沢民時代に急成長を遂げ、上海閥の地盤である香港での資金調達で巨大化した。その展開を支えたのが江沢民派の番頭役だった曽慶紅・元国家副主席の人脈だったとされる。曽慶紅の息子・曽偉、弟・曽慶淮とその娘の曽宝宝らと許氏は直接、間接につながり、利益集団を形成した。リーマンショック後に経営危機に陥りかけた時にも香港人脈が強くサポートした。そのため、恒大集団叩きは上海閥叩きでもあると読み解かれている。
来年に控えた党総書記3選に向けて、共同富裕構想の進展と政敵への打撃という一石二鳥を目指した習近平の「天の声」があるとすれば、すでに恒大集団の命運は決まったも同然。倒産か解体か、あるいは国有化か。行く末は不透明だが、泣かされるのは、同社の物件や金融商品を買った人々だけかもしれない。
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source : 週刊文春 2021年10月7日号