週刊文春 電子版

体脂肪計「タニタ」お家燃焼中 兄が社長の弟をパワハラ告発

「週刊文春」編集部
ニュース 社会 企業

「現社長の下で会社がおかしくなった」。そう社長の兄が語れば、前社長の父も「息子と話が出来ない」と嘆く。社員からはパワハラを告発する声が次々と噴出。体脂肪計や社員食堂でお馴染みの会社で何が起こっているのか。

「現社長の下で、会社はおかしくなってしまった。そのため、長年にわたり社員からの不満が、私のところに寄せられてきています。もう見過ごしておくことが出来ず、今回、お話しすることにしました」

 こう告発するのは谷田(たにだ)富士氏(51)。体脂肪計に代表される健康器具メーカー・タニタの子会社の元社長で、現タニタ社長・谷田千里(せんり)氏(49)の実兄である。

兄の富士氏
現社長の千里氏

「タニタは1944年、東京都板橋区で創業し、日本初の家庭用体重計を製造。92年には富士氏と千里氏の父・大輔氏の時代に、世界初の家庭用体内脂肪計付きヘルスメーターの開発に成功しました」(経済部記者)

 そして千里氏が社長に就任すると、社食のレシピ本『体脂肪計タニタの社員食堂』が累計485万部超のベストセラーとなり、13年には映画化も。レストラン『タニタ食堂』が各地に出来るなど、タニタの企業イメージは一気に上がっていった。

「近年、売上は堅調に伸びていて、自己資本比率も高く安定しています。アメリカの現地法人で収益を稼ぎ、海外展開にも成功している」(コンサル会社『QuestHub』大熊将八氏)

 従業員数は連結で約1200人。コロナでタニタ食堂も休業せざるを得ないなどの影響もあったが、21年3月期の売上高は連結で192億円にのぼる。ヘルスメーターは今年5月に国内累計販売台数1億台を達成した。

 だが実はいま、日本有数の健康総合企業の“創業家”が、経営権を巡り燃えている。富士氏はこう主張する。

「タニタは非上場で、株の約8割を谷田家と関係者で数%ずつ分け合って保有している、ファミリー企業です。社長は代々、谷田家が継いできましたが、社内で問題が起こり始めたのは、千里が社長に就任し、独裁体制を敷いてからです」

 千里氏が社長に就任したのは08年のことだった。社長を務めていた父が、脳動脈瘤の手術を行うことになり、後継者を選ぶ必要があった。当の大輔氏が語る。

「3人の息子がいますが、皆、別の分野を担当させていました。長男の富士は大学卒業後にタニタに就職し、フィットネス事業を担当していた。千里は栄養士の資格を持ち、船井総研に就職後、01年にタニタに入社します。当時は経営戦略室にいました。三男の昭吾は経理畑を任せていました」

 最終的に選ばれたのは千里氏だった。

「私も四男坊でしたから、特に『長男が』とは思っていませんでした。千里は前職がコンサル会社でしたし、適任だろうとその時は考えたのです」(同前)

 そして千里氏に社長職を譲り、大輔氏は会長に就任する。だが、ここから次々と千里氏以外の谷田一族は会社を去ることになる。

 1人目は大輔氏だった。

「千里は私が社長時代に新たに投資していた分野から手を引いたり、株を処理するなど、私の方針を否定していきました。何より、コストを下げる努力をすることで利益を上げていく、という以前からの社の方針も転換した。それで10年に退社しました」(同前)

前社長の大輔氏(本人インスタより)

 次が三男の昭吾氏。08年からタニタUSAに赴任していたが、10年に突然、退職する。元社員が語る。

「千里社長との関係が背景にあるとの話も社内で出ていました。その後、昭吾さんはヘルスケアオンライン株式会社を立ち上げます」

 最後が富士氏だった。富士氏は当時、フィットネスジム・タニタフィッツミーの社長を務めていた。だが11年、事件が起こる。

 富士氏が東京労働局に中小企業緊急雇用安定助成金制度を利用して、教育訓練のための助成金を受給するが、実は訓練が行われていなかったことが発覚したのだ。タニタ本社は労働局に約700万円もの助成金を全額返金した。

 そして千里氏は富士氏に出勤停止処分を下し、同年、富士氏は退社する。

体脂肪計

〈社長に殺される〉

 社長就任からわずか3年で、谷田家で唯一残ったのは千里氏だけとなった。

「誰も千里を止められなくなってしまった。気に入らないことがあれば怒鳴ったり、椅子を蹴り上げるなど、パワハラ行為を繰り返していると聞いている」(富士氏)

 ここに、千里氏の元秘書のAさんがタニタで働いていた当時、上司に相談していたメールがある。

〈全身蕁麻疹が酷いことになっており、明日またヤツのパワハラを受けるかと思うとますます恐ろしくて痒くて仕方なくて〉

〈社長に殺される前に死んでしまいたいです…〉

〈社長に殺される〉と記したAさんのメール

 Aさんが当時を振り返る。

「社長は些細なことで怒りました。例えば年に一度、地域の人を呼ぶお祭りがあります。日曜日でも社員たちは一生懸命準備をしていました。ただそこでポツッと雨が降ってきたとき、社長は『開催できるのかよ! 誰か天気が分かるやつはいないのか!』と怒鳴ったのです。日々罵声が飛ぶためストレスを感じ、トイレで泣いていました」

 Aさんは、精神科でうつ病の診断を受けていた。退職を決心したのは、社長との個人面談だったという。

「社長が、『俺は世の中を呪っているんだ』と言ったのです。訳が分からなくて、辞める決断ができました」

 トイレに行っていて、社長の電話に出られなかっただけで「何で出ないんだ!」と叱責された社員もいた。

“女性は早く結婚するべきである”との考えも持っていた。別の元社員が明かす。

「千里社長がある部門長に、『適齢期を過ぎた女性の部下を結婚させるのはお前らの任務だ』と言ったのです」

 千里氏が特に怒りをぶつけたのが、父の時代からの社員たちだ。

「ある古株の役員が会議で提案をすると『それは前社長時代の例です』と否定。徐々に感情が高ぶってくると、『すぐ辞めてしまえ!』『お前なんかいらないんだよ!』と、部下の前で怒鳴りつけていました」(同前)

 大阪営業所のBさんは20年以上営業部で働いてきた。だが18年、地域限定社員という雇用形態を結ぶように言われて受け入れると、待遇は一気に悪化した。

「昨年のボーナスは他の人が9カ月分支給される中、私は4万円でした」(Bさん)

 営業部で香港にいたCさんは昨夏、「子会社の現地法人に就職するか、辞めるか。帰国しても本社に部署はない」と告げられた。Cさんも20年以上勤めていたが、

「帰国したら本当に仕事が無く、3月に退社しました」

 9月15日、大阪府労働委員会はこの2人の案件を、不当労働行為救済申立て事件として調査を開始した(同社広報部は「Bさんは業務指示違反をしていた。Cさんには今も弊社負担で転職支援をしています」と回答)。

 極めつけは、千里氏が推し進めている「日本活性化プロジェクト」だ。これは社員に退職を促し、個人事業主として、改めて会社と業務委託契約を結ぶもの。それにより会社と対等な関係で長く付き合うことができ、「社員時代より収入アップ」「就業時間も自分で決められる」などと謳っている。だが――。

「フリーランスと企業が対等な関係を結べるわけがない。皆、それを分かっているから、なかなかこのプロジェクトは進んでいない」

 と、富士氏は語る。実際、8月時点で、個人事業主になったのはわずか33人。

「しかもなっているのは、千里にいい顔をしたい部長や取締役、そして千里の考えに傾倒する若手ばかりなのです」(同前)

 また、「労働法の観点から懸念すべき課題がある」と、旬報法律事務所の佐々木亮弁護士は指摘する。

「業務委託契約では労働法の保護が限定的です。業務で怪我・病気になった際、社員は補償が受けられますが、個人事業主は自分で保険に入らないと補償を受けられない場合もある。契約上、立場は非常に不安定。会社側は『収入が増える』と言っていても、増えた収入と、新たに置かれる立場を比較し、どちらが『得』か、見極める必要があるでしょう」(同前)

 実は兄弟対立も終わっていなかった。富士氏が言う。

「助成金受給問題から約7年経って、千里は私に対して損害賠償請求の訴訟を行ってきた。和解しましたが、父も『裁判までするなんて』と呆れていましたよ」

「10年かけて膿は出しました」

 一族や社員たちから続々と寄せられた告発を、千里社長はどう考えるのか。

――パワハラがあると複数の社員が証言している。

「あるかないかと言われれば、近い事はあります。業績が下がってきたので、ピリッとさせるため、部長や取締役レベルの方には厳しく言いました。行動変容を期待して、自分は語気を荒らげたり、そういう手法は使います。本当に怒っているわけじゃないです」

――今後、人事権を振りかざし、パワハラするのを減らそうとは思うか。

「基本的にやめるつもりはありません。自分はそこそこ頭が回るので、何も言わずに首を切ることができます。それも、愛情をもって接した上でやっている」

――大輔氏が投資した分野を千里社長が処分したのはなぜか。

「フィットネスや飲食なら分かりますが、父の趣味ではないかと思われる異業種の株もあり、しかも損害が出る可能性があった。業績を回復させるためです」

――「適齢期を過ぎた女性の部下を結婚させるのは上司の任務だ」との発言は。

「人生経験として、結婚は必要だろうという話を部門長とする中で、『じゃあ、お前の評価に入れればいいか(笑)』と言ったことはある。駄話(だばなし)レベルの話。私は結婚して幸せなので、どちらかというとお見合いを押し売りする方の人間ですけど、公の場で言ったわけではない」

――「個人事業主になるのは社長に気に入られたいからだ」と語る社員もいる。

「そういうやっかみで見るんだったら、あなたもやればいいじゃないと思う」

 あっけらかんとパワハラを認め、今後もやめるつもりはないと断言した千里氏は、こう胸を張るのだ。

「預貯金は溜まり、ボーナスに9カ月分払うぐらい純資産も増えている。この10年をかけて膿は出しました」

 一方、大輔氏が後悔を滲ませながら言う。

「タニタはあくまで非上場の企業なので、株主総会でも情報がきちんと開示されません。千里とも話が出来ない。私の代で上場させていれば、独裁体制が生まれることも無かったのに……」

 富士氏はこう訴える。

「財務状況は悪くないかもしれないが、裏には苦しんでいる多くの社員がいる。一度、千里には立ち止まって考えて貰いたいのです」

 そして2人とも、「もう一度タニタの経営に携わりたい」と口を揃えるのだ。

 今なお炎上し続ける健康総合企業のお家騒動は、なかなか鎮火しそうもない。

 

source : 週刊文春 2021年10月14日号

文春リークス
閉じる