週刊文春 電子版

論文が波紋、矢野財務次官が「モノ申す」ようになった理由

THIS WEEK「政治」

「週刊文春」編集部
ニュース 社会 政治

 7月に財務事務次官に就任した矢野康治氏(58)。今月8日発売の『文藝春秋』11月号に寄稿した「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」が、波紋を呼んでいる。

「現役官僚、それもトップが実名で、与野党の政策論争や自民党の総裁選を念頭に“バラマキ合戦のよう”などと批判するのは前代未聞。ですが矢野氏としては衆院選の前に国民に広く危機的な財政状況を訴え、議論を喚起する狙いがあって、この時期の寄稿を決断したようです」(財務省関係者)

 麻生太郎財務相(当時)の許可も得ていたという。

「矢野氏は『(麻生氏が)普段仰っていることを書かせていただきます』と話したそうです。麻生氏は財政規律を重視しており、昨秋コロナ対策で国民1人につき5万円の追加給付の話が出た際も『日本を外国の経済理論の実験場にしたくない』と言っていた」(同前)

 後任の義弟・鈴木俊一財務相も「問題だとは思っていない」と静観の構えだ。

「処分の可能性も囁かれましたが、記事は特定の政治家や政党名を挙げることは慎重に避けられており、あくまで政策論の形を取っている。ただ、基礎的財政収支の黒字化目標の一時凍結などを総裁選で訴えた高市早苗政調会長は、10日のNHK『日曜討論』で早速『大変失礼な言い方だ』と強い不快感を示していた。衆院選の公約に18歳以下に一律10万円を掲げる公明党も怒り心頭です」(政治部記者)

 論文の冒頭に「やむにやまれぬ大和魂」と吉田松陰の一首を引いた矢野氏は、山口県下関市出身だ。

「県立下関西高校では理系で数学が得意だったそう。一橋大経済学部から1985年に大蔵省へ。主税畑が長く、東大法学部卒で主計畑が事務次官になることが多い財務省では傍流の人と見られてきた」(同前)

 12年末に当時の菅義偉官房長官に秘書官として抜擢されると、直言する姿勢が評価されて出世の階段を上り、17年に官房長に。公文書改ざんの調査や、福田淳一元財務次官のセクハラ問題の対処にも当たった。

「その後、主税局長就任から1年で昨夏に主計局長になりますが、このサプライズ人事は特に菅氏の意向が大きかった。これで次官就任が確定しました」(同前)

 モノ申す次官となった背景にはこんな出来事がある。

「矢野氏が24歳のとき、3つ上のお姉さんが1年間の闘病の末、脳腫瘍で亡くなったそうです。自分も3年後には死んでしまうかもしれないと考えた矢野氏は、以降、怒られようが嫌われようが上司にも政治家にもズバズバ物を言うようになっていったそうです」(知人)

 岸田文雄首相の“聞く力”が問われている。

source : 週刊文春 2021年10月21日号

文春リークス
閉じる