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甲府一家放火殺人 19歳犯人は皆勤賞の生徒会長だった

《父が給湯器窃盗で逮捕、小中は不登校》《事件前、学園祭で広瀬すず似の生徒会後輩に…》《狙われた少女が卒業式で叫んだ両親への感謝》

「週刊文春」編集部
ニュース 社会

 家族4人が平和に暮らす家に侵入し、両親をメッタ刺しにした上、火を放って逃げた19歳。動機は片思いの後輩に「LINEをブロックされた」恨みだった。死刑も免れない凶行に及んだ“少年”の素顔に、総力取材で迫る。

全焼した井上さん宅

 JR甲府駅から南東に約3キロ、山梨県甲府市蓬沢は、周囲にぶどう畑が点在する平穏な町である。夜になると静まり返る住宅街の一角に1台の車が停まったのは10月12日未明のこと。

 木造2階建ての一軒家には、会社員の井上盛司さん(55)と妻の章恵さん(50)、その娘である2人の姉妹が4人で暮らしていた。

「もし見つかったら、家族全員ぶっ殺してやる……」

 井上さん宅を前にそう心に決めたのは、2週間ほど前に誕生日を迎えたばかりの少年A(19)だった。

少年A(中学の卒業アルバムより)

 Aは事前に井上さん宅を下見し、複数の刃物を準備した。その中から果物ナイフを選び、テープでぐるぐる巻きにして手に固定する。さらに揮発性の高い油が入ったオイル缶も用意した。家に来た目的は、同じ高校の1学年下のB子さん(18)に、交際を無理やりにでも承諾させるためだった。

 窓ガラスを割って侵入したA。だが、1階で寝ていた両親に見つかったことで逆上し、最初に盛司さんをメッタ刺しにする。さらに「やめて」と泣き叫ぶ章恵さんも同様に刺し続けた。傷は10カ所以上に及び、内臓にまで達していたという。

亡くなった井上盛司さんと妻の章恵さん(FNNより)

 2階にいたB子さんが異変に気付き、「泥棒に入られた」と110番通報したのは午前3時45分。妹が様子を見に2階から降りて行くと、AはB子さんの名前を叫びながら頭部に切りつけ、追いかけてきた。

 B子さんと妹は2階のベランダから何とか逃げ出す。その直後、Aは家中に油を撒き、火を放ったのだ。

 車で逃走したAは、途中で服を着替え、刃物を棄てる。約15時間後、現場から約30キロ離れた身延町の無人の駐在所から、泣きながら県警に電話をかけた。

「人を、殺してしまいました……」

 顔半分は火傷で水ぶくれになり、右手の小指は腱が切れて骨折していたという。

 建設関係の仕事に就き、剣道と釣りが趣味の父親と、パートをしながら着物の着付けを学んでいた母親のもと、幸せに暮らしていた姉妹。その日常を一瞬にして奪った19歳は、どのような半生を送ってきたのか。

 幼少期のAは、甲府盆地南部に位置する養蚕が盛んな中央市の田舎町で育った。2009年3月頃、当時6歳だったAの様子を近隣住民が振り返る。

「一家が引っ越しの挨拶に来たとき、ドアの陰に隠れて恥ずかしがっている男の子がいてね。『いくつになるの?』と聞いたら『こんど小学校に行くの』って挨拶してくれて。おとなしくてかわいい子だったよ」

 ところが翌年11月、Aの心に大きな傷を残す出来事が起こる。

「お父さんが窃盗の容疑で逮捕されちゃったのよ。電線工事関係の仕事をしていたようだけど、配管工事会社の資材置き場から、家庭用給湯器を2台盗んじゃったの。新聞にも結構大きく載っちゃってね。それ以来、Aくんは平日の昼間なのに学校に行かず、家の前でよくポツンと立ってるようになったのよね……」(同前)

 それから約3年後、小5になったAは、母親と2人でこの地を去った。

「お母さんは『母の具合が悪いので、実家で面倒を見るんです』と話していた。でも、本当はAくんがお父さんの逮捕のせいでいじめられていたから引っ越したんじゃないかな」(同前)

ニヤニヤしながら独り言

 転居先は同じ山梨県内の甲府市だった。小学校時代の同級生が振り返る。

「転入の挨拶のとき、先生から『この子は生まれつき持病があるけど、それをバカにしていじめちゃいけません』って言われたんです。彼は円形脱毛症だったみたいで、ツムジのところが禿げていた。だけど、先生の注意もあったので、いじめはありませんでした」

 この同級生はAを見て驚いたことがあった。

「まだ小学生なのに、既にiPhoneを持っていて、使いこなしていたんです。よく『パズドラ』とかのゲームをやってましたね」

 翌年には家庭環境に変化が起こる。

「母親が離婚し、すぐに別の男性と再婚したようなんです。小6の授業参観の時に赤ちゃんを抱っこしていました。母親はぽっちゃりしていて、穏やかな性格でしたね。Aが『新しいお父さんにビリヤードのキューを買ってもらった』と自慢げに話していたのを覚えています」(学校関係者)

 小学校の卒業文集には、修学旅行などの思い出を書いていたA。ただ「好きなアニメ」欄には、名前を書かれた人間が死ぬというノートを使い、犯罪者を殺していく主人公を描いた『デスノート』を挙げていた。

少年Aの小学校の卒業文集
好きなアニメ欄には「ブリーチ」「デスノート」

 中学は地元の学校に進んだが、当時の彼を覚えている同級生はほとんどいない。

「Aはソフトテニス部に入っていたけど、1年生の夏休み前にあった林間学校が終わって以降、学校に来なくなってしまったんです」(中学の同級生)

 中学の卒業アルバムに、Aはニキビ面で眉間に少ししわを寄せた表情で収まっている。同級生へのメッセージ欄には〈楽しかった林間学校! 3年間ありがとう。〉と書き残していた。

 その後、Aは甲府市内の定時制高校に進学。2年ほど前に「Aと遊んでいた」という女性が打ち明ける。

「ある時、甲府駅前で1人でいたAを友達が連れてきたんです。みんなタバコ吸って、酒飲んで騒いでいたんだけど、Aだけは飲んでいなかった。ちょっと変な奴で、急にお腹を抱えて笑い出して、『思い出し笑いです』とか言う。そうかと思えばニヤニヤしながら独り言をぶつぶつ喋ったり。ちょっと目を離すと花壇の砂をイジイジしたりして、何を考えているんだか、さっぱり分からなかった」

 遊ぶ時間はいつも夕方から夜にかけてだったが、

「午後6時半とか7時くらいに、母親からひっきりなしに電話がかかってきていて、着信履歴が母親だらけになっていました」(同前)

 身長は170センチ程度の中肉中背で、私服姿はいつも部屋着みたいなスウェット。髪型はボサボサで、オシャレに気を遣う様子もなかったという。

 だが、学校内での評判は良かった。同じ高校に通う生徒はこう語る。

「彼はいま4年生で、今年の4月に生徒会長に就任しました。無遅刻無欠席の皆勤賞を続けていて、先生からもすごく信頼されている。友達もそれなりにいたようですが、生徒よりも先生とばかり話していましたね。ただ、授業をしっかり聞いて、ノートもびっしり書いていたのに、成績は赤点ギリギリでした」

 その一方で変わった面も。

「少し雰囲気が怖いんですよね。みんなの前でマイクを通して話すときや、校内放送だと『みなさん、こんにちは! 生徒会長のAです!』って演技がかった感じで明るくハキハキしているんですけど、個別に話すとすごく静かで元気が全然ない。最近あった学園祭実行委員の集まりでも、1人でダーツみたいな形の折り紙を黙々と折っていて、不思議な人だなと」(同前)

 不登校だった小中時代と打って変わって、高校デビューを果たしたA。その心を揺さぶったのが後輩のB子さんだった。中学時代の同級生が印象を語る。

「B子ちゃんは、黒髪で目元がパッチリしていて、広瀬すずに似ている可愛い子。ちょっと不登校の時期もあったけど、男子とも女子とも分け隔てなく話す、姉御肌の明るい子でした。絵も上手で、合唱コンクールではピアノも弾いていました」

 特に目立ったのが、学園祭の時だという。

「学校の伝統行事で、毎年演劇を披露するんです、B子ちゃんは学校の先生役を演じたのですが、本当に名脇役という感じで、演技が他の子とは桁違いに上手く、人一倍輝いていました。キャストが浴衣を着る際にはB子ちゃんのお母さんが来て、着付けの仕方を教えてくれたんです」(同前)

 そして、同級生の間で強く印象に残っているのが、卒業式での出来事だ。体育館の壇上で卒業証書を貰う際、B子さんはくるりと保護者席の方に振り返り、

「お父さん、お母さん、ありがとう!」

 大きな声でそう感謝の言葉を叫んだという。

「他にそんなことをする子はいなかったのでびっくりして。両親とも仲が良かったんでしょうね」(同前)

 そんなB子さんとAの接点は何だったのか。前出の高校の生徒が言う。

髪型や眉毛を整えるように

「B子さんも生徒会の役員だったんです。Aは生徒会長になった後、突然ツーブロックに刈り上げ、髪型や眉毛を整えるようになり、『格好いいね』と褒めると、『あ、うん、ありがとう……』と喜んでいた。一緒に活動するうちにAはB子さんを一方的に好きになったみたいで、見た目にも気を遣うようになりました」

 事件が起きる4日前、高校では学園祭が開かれていた。そこで、2人が絡むシーンが目撃されている。

「生徒会を含む学園祭実行委員には、先生たちからお疲れ様の意味を込めた“ご褒美”としてお菓子の『うまい棒』が配られました。Aは、それをB子さんにプレゼントしたのですが、『いらない』と突き返されていました」(同前)

 この学園祭を境に、Aは皆勤賞だった学校にパタリと来なくなった――。

 Aは事件後の取り調べに対し、「LINEをブロックされてムカついた」「それで家まで(下見に)行った」などと供述。また、「自殺を考えたが死にきれず、誰もいないところで1人で生きていこうと思っていた」とも語っているという。

 事件が起きた日の地元紙には、学園祭の催しとして企画された、コロナ対策の「消毒スプレー」の製作についてAが取材を受けた記事が掲載されていた。

 一方、B子さんは同日、学校を代表して県内の高校に通う生徒による「意見発表会」でスピーチをする予定だったという。

 Aについて話を聞こうと母親に電話をかけたところ、「あ、ちょっと分からないんですが。えっと、あの、どういったあれでしょう」と言って切れてしまった。

 今後、Aはどう裁かれるのか。今年5月に成立した「改正少年法」では、事件を起こした18、19歳を「特定少年」と規定し、施行後の来年4月以降は起訴後の実名報道も可能になる。

 元東京地検検事の落合洋司弁護士が解説する。

「Aが既に19歳で成人に近い年齢ということに加え、刃物や油を事前に用意していたという計画性もあり、悪質さがみてとれる。現行の少年法のままでも死刑になる可能性は十分にある」

 今後の展開については、

「B子さんの妹への傷害罪は、いったん処分保留とし、井上さん夫婦への殺人罪でも逮捕することになる。1件ずつ逮捕すれば、起訴するまでの時間がかかるし、現住建造物等放火の罪でも再逮捕されることになるので、精神鑑定も行われれば、来年4月以降に起訴される可能性もあります」

 犯行後、「後悔している」などと供述しているA。今後、その実名が報じられたとしても、罪の重さが変わることは決してない。

source : 週刊文春 2021年10月28日号

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