「書いてない」の真意

新聞不信

「週刊文春」編集部
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 居酒屋でビジネスマンの話題といえば会社や上司の悪口というのが定番だ。しかしリモートワーク続きでネタが枯渇しているのか、先日珍しい場面に出くわした。隣に座った三人組のビジネスマンが日本製鉄によるトヨタ自動車の提訴について、唾を飛ばして話し込んでいた。

 電動車のモーターに使われる無方向性電磁鋼板について、日鉄は自社の特許に抵触する製品を中国の宝山鋼鉄が製造し、トヨタがそれを使ったモーターをハイブリッド車などに搭載・販売したと訴えた。特許法は製品を作ったメーカーだけではなく、販売した企業にも厳しい責任を問う。そこで日鉄はトヨタを提訴した。

 トヨタは「無実であることの説明に全力をあげたい」と主張しているから、裁判の長期化は必至。財界総本山の経団連でこれまで仲睦まじくやってきた日鉄とトヨタが始めたドンパチは当分続きそうで、しばらく酒の肴になるかもしれない。だからこそ予め釘をさしておきたい。

 週刊文春の11月11日号で朝日新聞記者の自殺が取り上げられた。記事にもある亡くなった記者が残した「つぶやき」を筆者も読んだが、上司から取材先への配慮を求められ、それでは本当のことが書けないと悩んでいたことが窺える。広告収入の激減を補おうと、企業に忖度した記事、ほとんど広告のような記事は増える一方だが、自殺はそうした堕落と無縁ではあるまい。

 長期化必至の日鉄とトヨタの法廷闘争で、メディアは忖度なしの記事を書き続けられるのか。部材メーカーが完成品メーカーに物申すのは日本では極めて珍しい。これが日本の企業社会の構造を変えるきっかけになるかもしれない出来事だということを肝に銘じる必要がある。

 片方の当事者であるトヨタが11月4日、2021年9月中間決算を発表した。純利益は1兆5000億円あまりで、中間決算としては過去最高。通期の純利益見通しは2兆4900億円と従来予想の2兆3000億円から上方修正した。

 各紙とも円安、採算の良い多目的スポーツ車の好調、販売奨励金の減少などが過去最高決算の要因で、半導体不足による減産と原材料費の高騰が懸念材料と分析をしているが、日鉄との訴訟はどこも触れていない。なぜだろう。

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source : 週刊文春 2021年11月18日号

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