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旭川医大学長 クラスター病院に「なくなるしかない」〈暴言音声〉

「週刊文春」編集部
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旭川医科大学病院
旭川医科大学病院

 北海道では寒くなり始めた10月下旬から徐々にコロナ感染者が増えだした。感染増は道庁所在地の札幌だけにとどまらない。恐れていた事態が起きたのは、札幌から130キロほど北東に離れた旭川市だった。

「11月頭に、旭川市内の慶友会吉田病院でクラスターが発生しました。同病院は療養型の病院で、高齢者や末期患者で全介助が必要な患者が多く、旭川にある5つの基幹病院でコロナ患者を引き受けねば立ち行かない事態に陥った。しかし5病院のうち、国立旭川医科大学病院だけが患者を受け入れようとしなかったのです。理由は大学のトップに君臨する吉田晃敏学長(68)が『受け入れは許さない』と言ったためでした」

 こう証言するのは、旭川医大幹部のA氏だ。日に日に吉田病院の感染者は増え、12月14日現在、職員・患者あわせて200人超が感染し、死者は34人にものぼる。A氏は苦渋の表情でこう悔やんだ。

「他の病院は受け入れているのに旭川医大だけが受け入れを拒否した。あの時即対応できていれば、クラスターを早く終息させられた可能性があったのに……」

 目下、陸上自衛隊の看護師らが支援に出動する事態にまで発展している旭川市。人口33万人を抱える北海道第2の都市で、何が起きていたのか――。

 西川将人旭川市長が語る。

「10月まで旭川は感染者が多くなかったんです。しかし吉田病院に続いて、旭川厚生病院、北海道療育園と相次いでクラスターが発生してしまった」

 市内の陽性者数は821人、死亡者数は65人。病床使用率も69%と高い。市内に9床ある重症者病床は既に6床が埋まっている。市立旭川病院の斉藤裕輔院長が語る。

「10万人あたりの1日の感染者数は全国平均の4倍。入院患者も4倍、死者は2.5倍、重症者は5倍。それが旭川の現状です」

 何より足りないのが医療従事者の数だ。

「11月の時点で各病院にどれだけ看護師が足りないか聞くと、合計で130~140人が不足しているという認識でした。自衛隊の存在はありがたいが、焼け石に水の状態です」(同前)

旭川に入った自衛隊
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 実はこの感染拡大の裏で、病院同士の対立が起きていた。12月1日、吉田病院が理事長名義でHPに「新型コロナウイルス感染症発生のお知らせ」と題する文章を掲載したのだ。

 そこで保健所や市とともに糾弾されたのが、旭川医大病院だった。名指しで、「感染患者の受け入れ拒否方針があった」と批判。その後この文章は削除され、吉田病院に取材を申し入れても断られた。だが、小誌が複数の関係者に取材すると、旭川医大病院の驚くべき実態が浮かび上がってきた。前出とは別の旭川医大幹部・B氏が語る。

「旭川医大病院は、同大トップに足掛け14年も座り続ける吉田学長に支配されています。11月7日に吉田病院でクラスターが発生すると、翌日、厚労省クラスター対策班や基幹5病院の病院長たちが集まった。数人の患者を各病院で引き受けることになり、旭川医大病院の受け持ちは一人でした。だが古川博之病院長が吉田学長に連絡すると、『それは旭川医大の使命ではない。受け入れは許さない』と言われたといいます」

 その後も吉田病院の感染者は増え続け、他の基幹病院の市立旭川病院、旭川厚生病院、旭川赤十字病院、医療センターの4つは次々に患者を受け入れた。そこで11月13日、古川病院長は再度、吉田学長に直談判をしに行ったという。

「何人か引き受けないと、吉田病院の感染はどんどん広がってしまいます」

 すると、吉田学長はこう恫喝した。

「患者を入院させるなら、病院長を辞めてください」

 前出のA氏が説明する。

「表向き、旭川医大病院は『重症者受け入れが中心だから』中等症、軽症者の受け入れをしなかったと説明していますが、それは後付け。確かに吉田病院の患者はコロナ重症者ではなく、中等症でしたが、寝たきりで介護度が高く、一人をケアするのにナースが3~4人必要な状態でした。旭川でコロナで亡くなっているのは実際には重症者ではなく、こういう高齢で基礎疾患のある中等症の方々です。ただ、こうした患者を受け入れると人手がかかる上、感染対策で病床の稼働率を下げなくてはいけなくなる。要は儲からない。学長はそれを嫌ったのでしょう」

 直談判の4日後、17日に行われた、大学経営会議。幹部十数人が集まった場で、吉田学長は吉田病院の感染対策や、旭川市長との対話などを脈絡なく喋った後、こう述べた。

「コロナを完全になくすためには、あの病院(吉田病院)が完全になくなるしかない」

「ここの旭川市の吉田病院があるということ自体がぐじゅぐじゅ、ぐじゅぐじゅとコロナをまき散らして」

 患者受け入れを拒否するばかりか、吉田病院を「なくなるしかない」と切り捨てている。地域医療を支える基幹病院のトップとは思えぬ発言だ(入手した音声は文春オンラインで公開)。

「赤字は断じて避けたい」

旭川医大の吉田学長

 吉田学長の狙いは、何としても病床稼働率の低下を回避し、利益を確保すること――取材した関係者はそう口を揃える。同氏は3月にも、同じ理由で職員を叱責しているのだ。医大病院の職員C氏が語る。

「2月に、感染症病床が4床だけだったため、健康で移動して貰いやすい患者の多い眼科病棟の個室9床をコロナ患者に使用することにした。すると稼働率が数%下がったんです。それに腹を立てた吉田学長が3月1日、『赤字、給与削減は断じて避けたい』と題したメールを教職員に送ってきたのです」

 そこには〈この分で行くと病院の収益が大きく下がり、夏のボーナスも全職員に満額支給できない〉〈眼科の手術は病院の大きな収入源です〉などと、コロナ対応よりも収入確保が重要である旨が記されていた。さらに〈病院長と看護部長には、私から見直しを強く強くお願い致しました〉と、コロナ患者のために病床を確保しようとした2人を批判している。

「旭川医大病院は13年~14年度に合計で約19億円の赤字を出した。その際に文科省に厳しい指導を受けたことが、稼働率にこだわる一因でしょう」(同前)

 吉田学長はなぜ病院長に「辞めろ」と言えるほどの、独裁者のごとき権力があるのか。

「学長は同医科大の第1期生で、40歳の若さで教授になり、07年に同大出身者初の学長になった。うちは学長が病院長を任命する仕組みなので学長の方が圧倒的に強い。患者の手術方針にまで口を出すほど。さらに、現在14年目と、全国立大学で最も長く学長を務めていることで権力が益々強まっている」(同前)

 コロナ患者の治療を巡っても、吉田学長が現場に介入したという。病院職員のD氏が説明する。

「ECMOを必要とする患者さんの呼吸管理のため、喉仏の下の気管を切開しようとしたところ、吉田学長が、『痰が飛び散るから気管切開は止めなさい』と救急科教授に言ってきたのです。確かに呼吸をしている人を気管切開するとエアロゾルが吹き出る。コロナ感染者なら、そこから感染が拡大する恐れはありうる。ですがECMO患者はすでに呼吸を止めているのでエアロゾルは発生しません。学長はそれも知らないのでしょう。元々眼科医なので専門外ですから」

 それ以外にも、近年は吉田学長の奇怪な行動が度々周囲を困惑させていた。

「18年3月の大学の卒業式を学長がまさかのドタキャン。同年4月の入学式には遅刻し、式がなかなか始められなかった。学長は酒好きで、学長室で昼からウイスキーを飲んでいた目撃談もある。そのため、アルコールのせいで遅刻や欠席をしたのではと職員たちの間で囁かれてきた」(同前)

 今年4月の、新型コロナ下での経営回復のためのインセンティブ説明会でも、支離滅裂な発言が目立った。出席した職員が言う。

「3月から収支がマイナスになっているため、手術数や稼働率を上げた診療科や病棟にインセンティブを与えるという内容でした。その途中、言葉に何度も詰まったり、手をぶらぶらさせたり、言い間違いを繰り返した。NTTをNECと言い間違えた時は指摘の声が飛び、『あ、NTTだ』と言った直後にまた『NEC』と繰り返すなど、酔っぱらいの挨拶そのもの。他の職員も呆れていました」

今年4月の説明会の動画より。吉田学長が言い間違いを連発

 その場で撮影された動画も出席者から入手したが、まさに証言通りの内容だった(文春オンラインで公開)。

 吉田学長に話を聞いた。

――病院長が「吉田病院から受け入れるべき」と言ったのを断ったのか。

「病院長から(確かに)『市内の軽症者の受け入れも再検討したい』との申し入れはあった。その後議論を重ね、受け入れ対象を重症者だけではなく中等症以上に(今は)拡大しています」

――11月17日の会議で「コロナをなくすにはあの病院がなくなるしかない」と発言をしたか。

「言うわけないだろ。いや、例えば言うとすると、なんか理由があるんですよ」

――4月の説明会では言い間違いも多く、前夜に相当酒を飲んでいたとの話も。

「言い間違いもあるかもしれません、人間ですから。前夜も飲んだかもしれません。だけど僕のあの時の話で、みなさんは奮起したわけでしょ。そういうこと言われても困るよね。中川昭一さん(元財務相)が、会見でベロベロになって、というほどではないですから」

――昼から学長室で飲むこともあるか。

「あるわけない」

――18年の卒業式を欠席、入学式を遅刻したか。

「卒業式は別用があり、やむを得ず欠席した。入学式についても遅刻は事実ですが、約20分間の急な電話対応に追われていました」

 前出の幹部・B氏はこう嘆息する。

「旭川医大が重症者の治療が中心であることは事実ですが、旭川のように病院数が少ない地域は、中等症や軽症の患者についても、他の病院の患者が溢れてくれば、基幹病院として受け入れるのは当然のこと。早い段階で中等症や軽症に関してもうちが受け入れていれば、感染終息に貢献できた可能性が高い。その認識が学長には全くなかった」

 これぞまさに人災である。

source : 週刊文春 2020年12月24日号

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