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日大理事会で爆弾発言「みんな田中から背広と金もらってる」実況中継

西﨑 伸彦
ニュース 社会

 1月14日、市ヶ谷にある日本大学本部で行なわれた理事会。所得税法違反で逮捕、起訴された日大前理事長、田中英寿氏(75)について、出席者の一人がこう発言すると、その場の空気は一瞬にして凍り付いた。

「みなさんも、就任祝いを貰ったり、高価な背広を1着くらい田中先生に作って貰っているでしょう」

 

田中氏

 日大の“ドン”こと田中氏の保釈が認められ、22日ぶりにシャバに姿を現したのは昨年12月21日のことだった。

「保釈保証金の6000万円は現金で納付。年内のうちに修正申告も済ませ、6000万円を超える追徴課税の支払い手続きもとっています。

 さらに、田中氏の三名の顧問弁護士には保釈を勝ち得た報酬として合計5000万円が支払われたとも言われている。地検特捜部は血眼になって不正に蓄財された田中氏の資産、通称タマリの行方を追ってきただけに、地検内部からは、『右から左へと簡単に動かせるお金はそれほどなかったはず。出処が不明だ』との声もありました」(司法記者)

 保釈後の田中氏は、阿佐ヶ谷にある自宅から、一時は連日のように車で外出していたという。

「田中氏の保釈の条件として接見を禁じられた“日大関係者”はかなり広範囲に及んでおり、地検側も動向を注視していました。田中氏の権力の源泉と言われた全国にあるОB会組織『校友会』の関係者、今回の日大板橋病院を巡る背任事件で重要な役割を担った日大の子会社『日本大学事業部』の関係者も対象に含まれており、彼らとの接触が確認されれば、保釈が取り消される可能性があるのです」(地検関係者)

 外出時には主に二人の側近が交代で運転を担当。一人は田中氏と同じ青森県出身の後輩で、以前は日大と取引があった葬儀屋、もう一人が日大相撲部ОBだ。

「このОBは、日大事業部の職員で、田中氏の自宅をリフォームした石川県の建設会社の営業部長でもあった人物。かつて別件で、警察当局の任意の事情聴取を受けた際、田中氏の秘密について『地獄まで持って行く』と豪語したとされる最側近です。今は日大事業部を辞めており、持病がある田中氏の世話役として弁護団が地検側に要請し、接見禁止の対象から外して貰ったそうです」(同前)

英國屋の125万円の背広

 田中氏を乗せた車は、たびたび優子夫人が入院する日大病院へと向かった。ここで田中氏は、自身の主治医でシンパの一人である副学長と会っていたという。

「持病を抱えていた優子夫人は、9月の家宅捜索後に階段から落ちて頭を強打し入院していましたが、田中氏の勾留中に意識が混濁し始め、危険な状態に陥っています。田中氏が理事長を辞任したこともあり、日大病院からの転院を複数の病院に打診したものの、コロナを理由に全て断わられたため、その後は正規の料金を払って特別室に残ることになった」(日大関係者)

妻の優子氏

 権力の座から転がり落ち、拠り所だった妻の不在により意気消沈する田中氏の周辺で、不穏な情報が駆け巡り始めたのは、年末から年始にかけてのことだった。

「記者会見で田中氏と“決別宣言”し、学長との兼務で後任理事長に就任した加藤直人氏が、2020年9月に学長に就任した際、田中氏から英國屋の背広を就任祝いとして仕立てて貰っているという噂が広まったのです。しかも、金額は125万円。多額の祝儀も貰っているという話まで出ていました」(同前)

加藤理事長

 そして、その噂を裏付けるように、理事会の場で冒頭の発言が飛び出したのだ。

 発言の主は、日大生産工学部の校友会会長で、優子夫人の肝煎りで理事に推挙された人物だという。

「田中氏が逮捕された後、日大の約30人の理事は全員辞表を提出しました。しかし、この辞表は加藤氏の預りとなったままで、実際には新たな選出方式で後任の理事が決まるまで、現行の理事が残り、今も理事会を開いています。形骸化した理事会ですが、この日は理事の一人である医学部長が、3月末で医学部長職も辞したいと申し出、これについての話し合いなどが行なわれていました」(同前)

 そこで、件の校友会会長は、唐突にこう切り出した。

「加藤学長は学長就任祝いとして高価な背広を田中先生に作って貰ったが、みなさんも学部長になったり、理事になった時、同じように貰っているでしょう」

 そして、こう畳みかけた。

「あなた方のなかには田中先生にお願い事をした人もいるでしょう。加藤学長だけを責めるべきではない」

 さらに、こんな脅しめいた文句も口にした。

「田中先生は、いま本を書いている。本人が誰に背広を作ってあげたか一番知っている。みなさんの名前が出ることもあるでしょう」

 これに対する反応は一切なく、他の理事は一様に固く口を閉ざしたという。

田中氏の“運転手”は小誌に…

 改めて、加藤理事長に事実関係と理事会での経緯を聞いた。

「あれは奥さんからだったか、田中先生からだったかは記憶がはっきりしませんが、学長就任のお祝いに、英國屋の布地を頂いて、スーツを作ったことは事実です。周りにたくさん人がいたので断われず、受け取りました。ただ、私は吊るし(既製品)のスーツしか着たことがないので、値段がまるで分からず、常識的に贈り物なら一人5万円だろうと思い、そこから予想金額を(4倍の)20万円として、お返しはしました。貸し借りはないと思っていますし、お祝い金は一切受け取っていません。もし、そんなに高い(125万円の)ものなら、その金額分はお返ししたいと思います」

 理事会での“爆弾発言”については、こう話す。

「議事録も残る理事会で、なぜ彼が、あの発言をしたのか、真意は分かりませんが、(田中氏に)お世話になった方には重い言葉だったと思います。今の理事の方々も、私も、新たに設置した『日本大学再生会議』で道筋がつき、組織が整えば、4月以降、辞めることができると思う」

 一方、田中氏の運転手役の相撲部ОBはこう語る。

「田中先生は校友会の人とも会っていませんし、本も書いてはいません。みんなおカネを貰っていないとか言っていますが、お世話になった人ばかりですよ。ある学部長は阿佐ヶ谷のちゃんこ屋に来たこともないと言っていましたが、何回来たことか。酔って他人の靴を履いて帰ったことも憶えていないのかと言いたい。そういう嘘が、今後問題になるんじゃないですか」

 田中氏の隠然たる影響力は、今も、改革への勢いを削ぐ“呪縛”となっている。

市ヶ谷の日本大学

 日大元幹部が語る。

「最近行なわれた日大の体育会ОBによる『桜門スポーツ部会』の会合に、18年のアメフト部の悪質タックル問題で解雇された内田正人元監督が姿を見せました。会議が始まると、『みんな理事長にお世話になったんだろ』『(田中氏の)校友会会長職の解任のやり方がおかしい』などと一人で田中擁護論を捲し立てていた。業を煮やした文理学部の局長やスポーツ科学部の学部長から『いい加減にしろ』と叱責され、最後はすごすごと退散して行きました」

 田中氏の復権を望む勢力が蠢いている間に、文科省の外郭団体「日本私立学校振興・共済事業団」は、日大に対する約90億円の補助金を交付しない方針へと舵を切った。田中体制からの真の脱却は果たして実現するのか。再生への茨の道はこれからが正念場だ。

source : 週刊文春 2022年2月3日号

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