横綱曙を生んだ名門部屋を31歳で継いだ元潮丸の東関親方。部屋を新築し、待望の娘が生まれた矢先、体に異変が。咳が止まらず、痩せ細っていく――悪性の希少ガンだった。41歳で亡くなるまで2年間の闘いの記録。

結婚してくれてありがとう。娘を授けてくれてありがとう。あなたと出会えて本当に幸せでした。いつまでも愛しています――。
妻がそっと耳元に語りかけた。ベッドに横たわる夫は、か細く息を響かせるだけで、もう何も応えてはくれない。
2019年12月。その日、東関親方こと佐野元泰氏(以下、東関)は、入院先の病院から自宅へと搬送されていた。最期を我が家で看取るためだ。
「もう苦痛は感じていないと思いますが、耳は聞こえています」
在宅医の言葉を信じ、夫の隣に布団を敷いた妻の真充(まみ)さん(42)は、溢れる涙に構わず話しかけ続けた。
娘は大切に育てるよ。力士たちのことも心配しないでね。私にもその時が来たら、必ず迎えに来てね。
翌日の12月13日。東関は穏やかに息を引き取った。享年41。
若い衆と続けた“交換日記”
東関親方――元幕内・潮丸(うしおまる)は1978年、静岡県静岡市に生まれた。中学時代は“静岡のドカベン”の異名を持つ、将来を嘱望された野球少年。生徒会長も務めた。相撲経験はなかったものの、先代東関親方(元関脇・高見山)の熱烈なスカウトを受け、「母に楽をさせてやりたい」と15歳で角界入りを決意。94年春場所で初土俵を踏んだ。

当時は空前絶後の大相撲ブーム。潮丸は入門後、若貴兄弟のライバルだった横綱・曙の付け人となる。02年初場所で十両に昇進。同年名古屋場所では十両優勝を果たした。1つ年下の真充さんと結婚したのは、07年のことである。
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source : 週刊文春 2022年3月24日号