「奥さんばっかり働かしたら旦那あかんでって、近所の商店街の人、皆で言うてたんです。森岡は『死んでも配達はやめへん』って言うてたくらいですからね」

 そう語るのは、あかね通り商店街の「森岡酒店」店主・森岡新平役のおいでやす小田だ。錠一郎は単なる“ヒモ男”だったのか?

回転焼きは専らるいが売っていた(写真 公式インスタより)

 デビューを目前に控えた錠一郎が、原因不明の病気でトランペットを吹けなくなったのは、1963年のこと。るいと結婚し、翌64年、京都で回転焼き「大月」を開店した。が、錠一郎が働く気配は全くない。

 11年後の75年、少年の「コーチの奢りや!」との声で現れたのが、錠一郎だった。少年野球のコーチになったかと思いきや、ベンチに座っているだけ。収入はゼロだったと見られる。

 娘にお小遣いをあげる余裕も無かったようだ。10歳のひなたはモモケンのサイン会に行くため、空き瓶を拾っては換金し、小銭を貯めていた。「これくらいは自分で稼がんとな」と言う娘に、「偉いなあ」と応じるだけ。ひなたはお年玉に期待するも「今年も岩倉具視(500円札)やった」と肩を落とし、結果、100本の空き瓶を集めてモモケンに会いに行ったのだった。

 父の威厳を見せる機会はなかなか訪れなかったものの、一度だけ娘を一喝する“事件”が。外国人少年ビリーに英語で受け答えできず、八つ当たりで回転焼きを振り払ったひなたを「お母ちゃんにも、回転焼きにも謝れ!」と叱ったのだ。

「あかにし」店主・赤螺吉右衛門役の堀部が言う。

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source : 週刊文春 2022年4月14日号