「書くものにハズレなし」|横田増生

ナンシー関と私

「週刊文春」編集部
エンタメ 芸能

(よこたますお 1965年、福岡県生まれ。ジャーナリスト。物流業界紙の記者、編集長を務め、フリーに。『潜入ルポ amazon帝国』で新潮ドキュメント賞受賞。『評伝 ナンシー関』(中公文庫)が5月24日発売予定。)

 

 私は没後10年にあたる2012年に『評伝 ナンシー関』を朝日新聞出版から上梓した。没後20年に合わせ、新装版として中公文庫で復刊する。それに合わせ、読み返していると、引用しているナンシー関の文章がおもしろくて、書棚からオリジナルの文章の載った本を探して読みふけった。

 ナンシーが大好きだったプロレスの技をめぐって、「『ベア・ハッグ(熊の抱き締め)』が『サバ折り』となるのは、相撲を国技とする国である以上当然である。そうでなくとも、あの技から『熊』ではなく『サバ』を連想したところに日本を感じると言ってもいい」と書くのを読んで声を上げて笑った。

 デーブ・スペクターの駄ジャレがおもしろくないと突っ込むナンシーに、太っているくせにと反論してきたデーブ。それに対し、「私も昨日や今日急に太ったワケでもないし。ま、ちゃんと読んでから怒ることだ」と切り返した文章には胸のすく思いを味わった。

 私が評伝を書こうと思った理由は、その文章がおもしろいと思ったからだ。どれを読んでも笑えるし、書くものにははずれがない、というのが出発点だった。

 取材を始めると斯界の権威たちが、その才能を高く買っていたことを知った。宮部みゆきは文章の才能を誉め、日本テレビでお笑い番組を制作していた土屋敏男は、そのコラムを番組つくりの羅針盤にしていた。イラストレーターの山藤章二は、その観察眼は「焦点深度が深かった」と讃えた。

 ナンシー関は、何よりもテレビ番組が好きだった。中でも一番にくるのは、報道でもドラマでもなく、お笑いだった。子どもの頃は、ドリフターズを愛し、その思いは欽ちゃんから所ジョージ、ビートたけし、ダウンタウンへとつながっていく。

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source : 週刊文春 2022年5月5・12日号

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