(えのきどいちろう 1959年生まれ。秋田県出身。コラムニスト。中央大学経済学部卒。主な著書に『F党宣言! 俺たちの北海道日本ハムファイターズ』『みんなの山田うどん』(北尾トロとの共著)など。)
ナンシー関はうちのカミさんの友達だったんですよ。二人は広告学校の同期で、同い歳です。ある日、(後にカミさんになってくれる結婚前の)カミさんが消しゴムハンコをいっぱい押した手帳を見せてくれて、「関直美ってね、すっごい面白いんだよ」と言ったんです。僕は「あぁ、この人はプロになれるね」と言って、そのときはそれで終わったんですけど、ひと月くらい経った頃かな、集英社でイラストが決まらない仕事があったんですよね。思い出して「その関さんって人に連絡取れないかな?」と電話した。
カミさんの話では当時の関直美は「日本一ヒマ」でした。法政大学の2部の学生なんだけど、バイトしたりしてぶらぶらしてた。基本、「(ビート)たけしのオールナイト(ニッポン)を聴いて、1日に何度もお風呂に入ってる生活」だから、イラストの仕事なんか頼んだら「絶対やる」はずだというんです。当時はね、広告学校のカリキュラムも終了して、みんなやることがなくてUNOばっかりやってたらしい。で、トミー(現・タカラトミー)主催のUNOの全国大会があったんで応募して、広告学校の同期で1、2、3位を独占した。決勝戦は新宿高層ビルのステージに上げられて、司会の吉田照美が実況するなか行なわれたそうです。うちのカミさんが優勝で、関さんは3位でした。だから関直美はUNO日本3位の実力者なんですよ。
さて、初仕事の依頼で電話して、とにかく関さんといっぺん顔合わせです。高田馬場ビッグボックスの前で待ち合わせをして、当時、僕が所属してた編プロに来てもらった。消しゴムハンコの作品を見せてもらって、あと「たけしのオールナイト」の話をしたかな。絵もバツグン、話もホントに面白かった。編プロのみんなも大いに気に入って、うちの事務所で売り出そうってことになりました。
仕事はトントン拍子に決まっていきました。でも、感覚は「イラストレーターごっこ」ですよね。講談社にいたいとうせいこうに「ナンシー関」ってそれっぽい名前をつけてもらって、当人は「ナンシーって名乗るの? ええっ、それは恥ずかしい……」ってなったり、爆笑でした。
僕も連載の挿し絵をお願いしたり、ラジオに出たり、色んなことを一緒にやったんですけど、基本的な認識は「カミさんの友達」なんですよね。折にふれ、思い出話になる。亡くなってしばらくは悲しすぎて、「いなくなったけどロンドンかどこかに行ってることにしよう」と家庭内の決め事にしました。元気かなぁ、あいつのことだからロンドンでも楽しくやってるだろうって。
ついこないだ出たのは中国旅行の話。ナンシーとカミさんは80年代、上海・広州を3週間、二人旅してるんですよ。言葉が通じないから筆談でやりとりするんだけど、ナンシーの字がきれいだって中国でいつも褒められたとか。あと仲良くなった家庭に招かれてナンシーがそれ1曲しか弾けない「ねこふんじゃった」を弾いたんです。拍手喝采だったそうですよ。ビューティフル、日本からピアニストが来たって。
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source : 週刊文春 2022年5月5・12日号